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第176話
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今日はどうやら志乃は仕事に行くらしい。
俺が前にバイトをしたいと言ったからか、また見張りがついてしまった。
今日は夏目さんは忙しいようで、立岡さんがやってきた。
「バイトしたいんだってぇ?志乃が怒ってたよ。でも俺に当たるのは違うくない?本当参るよ」
「···ごめんなさい」
多分、今の”参るよ”は志乃に対してだけじゃなく、俺に対しても言っているような気がした。
「ていうかいつまで君の見張りをしなきゃなんないんだろうね。もう22でしょ?見張られる年でもないのにね」
「···はい」
「俺出掛けたいぃ。どっか行こうよ。行きたい所ないの?」
本当につまらなそうにそう言った立岡さん。どうしよう、すごく帰ってもらいたい。
「行きたいところ···立岡さんは?」
「酒飲みたいし、自分の仕事もしたいし···何よりも女の子と遊びに行きたい」
「···あの、俺から志乃に頼みますけど」
「わあ待って!何それすごくいい案じゃん!電話して電話して!あ、余計なことは言わなくていいからね」
立岡さんの目が一瞬ギラって鋭くなった。この人の本性はまだ何も暴けていないから、こういう時は少し怖い。寝室に移動して志乃に電話をかけてすぐ、「どうした」と電話に出た志乃に要件を話すと、深い溜息が聞こえてきた。
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