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第179話

*** 「昨日俺は親父と飲んでたんだよ。夜遅くまで!」 「どうでもいい、早く出て行け。黙って仕事しろ」 翌日、梓を連れて本家にやってきた俺は、部屋に何故か立岡がいて、それに腹を立てていた。 「梓くん、今日は来たんだ。」 「ぁ、はい」 「よかったねえ」 昨日何事もなかったかのように振る舞う立岡に梓は少し戸惑っている。 「じゃあねぇ。」 部屋から立岡が出ていくと、梓が俺を見て不安そうな顔をするから、努めて優しく笑いかける。 「立岡さん、ここで何してたの」 「さあ。でも昔からよくある。あいつはただの友達だったからな」 「···俺、それ嬉しくない。志乃のこと、俺より知ってるのが気に食わない」 「そんな事ねえだろ。あいつは俺の表面を知っていても本質は知らねえ筈だぞ」 梓を引き寄せてそう言う。少しは機嫌は良くなったようで、俺の背中に手を回し肩に顔を押し付ける。 「俺だけが知ってたい」 「···そうだな。俺もお前にそう思うよ」 「本当?」 「ああ。お前のことは俺だけが知っていればいい。そうすればお前は俺がいないと生きてけねえだろ。」 「···それ、一回聞いたことある気がする。」 満足したのか俺から離れて、笑う梓にキスをした。 「仕事する。何でもしてていい。ただ組の外には出るな。出る時は必ず言うこと。約束だ」 「うん、約束」 梓が頷いたのを確認して、仕事に取り掛かる。 ちらりと梓の方を見ると、部屋に置いていたいくつかの本の中から、選んだ一冊をソファーに寝転びながら読んでいた。

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