184 / 292
第184話
「梓」
部屋に行けば梓はテレビをつけながら本を読んでいて、声をかけると驚いたように振り返る。
「え、志乃?どうしたの?仕事は······あ、ごめん、ここで話するなら俺出て行くけど···」
そして俺の後ろにいた晴臣さん見て、すぐに困ったような表情になった。
「梓くん、初めまして。浅羽晴臣です。突然で申し訳ねえが、君に用があって来たんだ」
「···俺に···?」
そして晴臣さんの言葉を疑い、俺を見ては一度こくりと小さく頷いた。
「まず、俺のことはハルって呼んでくれ。敬語も要らねえから」
「···じゃあ、俺のことは梓って呼んでください」
「わかった。···なあ梓、急で悪いんだが、お前は志乃のこと、どう思ってんの?」
「志乃のこと···?」
俺を見た梓は、「それって、どういう質問?」と晴臣さんに聞き返す。
「感情のこと?関係のこと?もし感情のことなら、俺は志乃のことが好き。関係のことなら、信頼してる。志乃は俺に嘘をつかない」
「そうか。······なぁんだ。ならお前じゃなくて、志乃が信頼してないんだな」
「志乃が?信頼してないの?俺を?」
晴臣さんの思考についていけない。
俺を睨むように見た梓が、近付いてきたと思えば、胸を強く叩かれた。
「俺のこと信頼してないの!?」
「···晴臣さんの意図がわかんねえ。俺は梓を信頼してる。たった今梓を知ったあんたが、俺達の関係をどうこう言えんのか?」
つい、熱くなって敬語も忘れ、強い口調で言うのに、晴臣さんはただ笑うだけ。
「信頼してないから、梓がどうにかなっちまいそうで、それが不安で踏み出せねえんだろうが」
「···踏み出す?志乃、何の話?」
「お前のしてるそれは梓の為じゃねえ、それすらお前の為なんだよ。わかるか?」
「あ、あの、ハル···くん、そんなに志乃を責めないで。とりあえず座って、ゆっくり話そう?今日は時間があるでしょ?話し合いに来たんだから」
何も言えない俺を、ソファーに座らせた梓。飲み物を入れた梓が隣に座り、目の前には晴臣さんが。
「志乃と、眞宮の親父さんはお前のことを気にかけて、志乃を襲ったヤツらに対して何も出来ていない。」
「···志乃を襲ったって···夏目さんの家からの帰りの?」
一瞬だけ、あの時の光景と、痛みが脳内で蘇った。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!