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第185話

梓が俺の顔を覗き込んできたから、一度頷いた。 「お前が不安定になる可能性があるから踏み出せないんだそうだ。話は聞いた、虐待されて記憶をなくし挙句に施設に入れられたって。そのせいでお前は不安定だって」 「···また俺が不安にならないために、志乃も親父さんも動けないの?」 梓のグラグラと揺れる瞳に見られ、晴臣さんが包み隠さず自身の境遇を言われたことに不安になっているんだろうと思う。 梓の頭を撫でると、ゆっくりと呼吸をした梓が「どうなの?」と聞いてきたから、正直に頷いた。 「···志乃は、優しいから、誰よりも俺を優先してくれるんだよね。俺のことを信頼してないとか、そういうのじゃなくて、ただ優しいだけなんだよね」 梓の手が、俺の手に触れて、優しく笑う。 晴臣さんはそんな俺達を見て、何も言わない。 「俺は志乃と、親父さんが無事でいてくれるならそれでいいよ。」 「···前みたいになったら···」 「もしそうなっても、志乃がまた助けてくれるでしょ。だから大丈夫。ね?」 「···そうだな。大丈夫だ」 梓の手を握る。そして晴臣さんを見れば「決心はついたか」と、威圧するようなオーラを放ちながら言う。 この人は、人の上に立つ人だと、改めて実感する。 「はい。親父と話します。」 「ああ。それより梓、お前、俺の恋人に会ってみねえ?ほら、志乃って俺と同じ立場だし、だからこその悩みとかもあるだろ。俺の恋人はお前と同じ立場だし、分かってやれることがあるかもしれない。」 「えっと···でも、ほら、俺男だし···やっぱり性別によっては思うことも違うでしょ?」 「いや、俺の恋人も男だから。最近暇だとも言ってたし、話し相手になってやってくんねえか?」 「ァ、お、俺でよければ···」 晴臣さんの恋人が男だとは思っていなかったようで、ぽかんとしている梓。そんな姿も可愛らしいと思いながら、これからのことを考える。 「志乃、俺も手伝う。そんなに難しい顔するな」 「あ···はい」 晴臣さんがそう言うから、全部が大丈夫なように思えた。

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