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第187話
なんか、すごく疲れた。
読んでいた本を再び開ける気力はない。
さっきまで隣にいた体温はもう無くて、仕方なくクローゼットに入っていた志乃の服を拝借し、それを着てベッドに行く。
これで少し眠れそうだ。
「···志乃の匂い」
志乃がここで休むことは少ないだろうけど、ベッドから香る微かな志乃の匂いに心底落ち着く。それに、服からも。
「はぁ···」
早く家に帰って、志乃と二人になって、またさっきみたいにくっつきたいな。
志乃は嫌かもしれないけど、俺はたくさん志乃にくっついていたくて、こんなにも求めてる。
もしかしたら俺は世間で言う重たい奴なのかもしれない。もしそうで志乃が本当は嫌がっていたらどうしよう。
ベッドに横になったまま目を閉じて、少しでも一人だと感じる時間を無くそうと、眠ることにした。
***
「梓、起きろ」
「···ん」
肩を揺すられて目を開ける。
志乃の顔が目の前にあって、引き寄せてキスをした。
「眠いぃ···」
「帰るぞ」
「んー···連れてって」
「······今日はここに泊まるか?」
俺が起きないから、そう言ったんだろうけど、その言葉が少し寂しく感じた。
「···やだ。帰る」
「わかった。···なあ、それ俺の服」
「うん。勝手に取った。なんか、志乃に抱きしめられてるみたいで安心できたよ。着る?」
「いや、俺のだから。自分に抱きしめられて安心できるかよ」
「案外できるかもよ」
のっそりと起き上がり、志乃に抱きつくと、服よりも濃い匂いにふがふがと馬鹿みたいに嗅ぐ。
「犬かよ」
「志乃の匂い好き。···ねえ帰ろうよ。」
「お前が寝てたんだろ」
頭を撫でられ、寒いからと上着を着せられて外に出る。もう空は真っ暗で、どれだけ寝てたんだろうと疑問に思った。
けれど、それより───······
「寒い」
「俺も寒い」
「志乃ぉ、家まで車飛ばして」
「神崎に言え」
「え、神崎さんが運転してくれるの?じゃあゆっくりでいいや」
「何だそれ」
あの綺麗な人を見れるなら、寒くても我慢しよう。門の前で車を停めて待っていてくれた神崎さんに挨拶をして、車に乗り込むと、暖房がきいていて有難い。
「暖かい···」
この暖かさが、寝起きのおかげで眠気を誘ってくる。けれど眠っちゃ悪いと一生懸命目を開ける。
「志乃、家に着くまでに寝たらごめん」
「起こすからな」
「うん」
家に着くまで、必死で目をこじ開けていたのだった。
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