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第196話 梓side
「若、早河です。失礼します」
ハル君のお父さんに挨拶をして、部屋に戻ってくるとすぐに、早河さんという人がやって来た。
「今向かったようです。俺達も向かいます」
「ああ。無理はするな。向こうの指示に従え」
「はい」
その会話で、志乃が戦いに行ったということが分かって、ハル君を見ると、優しく笑いかけられる。
「大丈夫だ。今回のことは志乃が考えたらしいが、それなら志乃は頭が良い。あいつが下手をすることは普通にいけばまず無いな。」
「普通にって、何?···普通じゃないことって何?」
「···仲間が裏切るとかな」
「···確かにはそれは普通じゃないね」
嫌なことを考えてそわそわする俺の隣に、陽和君が座る。
「ねえねえ、俺とハルのことも話すから、梓君と···志乃さん?のこと、教えてよ!」
「あ、うん。いいよ」
「じゃあ早速だけど···二人ってさ、どういう関係なの?」
ハル君は話してなかったのだろうか。
そう思いながら、その質問に答える。
「恋人だよ。···従兄弟っていう関係でもあるかな」
「従兄弟なんだ!なんか、言葉が変かもしれないけど、すごいね」
「すごい、かなぁ?でもそれを知ったのは最近なんだ。ずっと記憶がなくて···」
「えっ」
「忘れてたんだ、志乃のことも、お母さんのことも、全部」
「···えっと、あの、ごめんね。俺もしかしてまずいこと聞いちゃったかな」
多分、俺が不安にならないように話題を変えてくれたんだろう。
今の話題も重いといえば重いけれど、記憶を忘れていた事自体には何も感じていない。ただ、記憶を忘れた理由はまだ、感じるものがある。
「大丈夫。記憶を忘れていた事は何とも思ってないから」
「そうなの···?」
「うん。今は記憶もちゃんとあるしね。」
笑ってそう言えば陽和君はホッと息を吐いた。
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