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第203話

連れてこられた所は言っちゃ悪いけど、少しボロくて幽霊でも出るんじゃないかって思っちゃう建物。 眞宮組の怪我をした組員さん達はここに来ているようで、どうやらここは病院らしい。 腕を掴まれたまま建物内の廊下を歩き、ハル君は躊躇うことなくとある1室に入った。 「トラ」 「あら、ハル」 そこに居たのは男の人。白衣を着ていて医者だということがわかる。ハル君がトラって言っていたから、さっき車で言ってた言葉はこの人が言ったらしい。 「一通りみておいたわ。ところで後ろの子はだぁれ?あ!もしかして浮気っ!?陽和君にチクってやるわ!」 「違う」 トラさんの見た目と口調のギャップに驚いて一歩退いたのに、ハル君に腕を引かれることで無意味になる。 「眞宮組の若頭の恋人。それから現頭の甥っ子。」 「あ、梓、です」 「···あらあら、なら今大変でしょう。」 「話、してやってほしい」 「わかったわ」 ハル君が俺の背中を押してトラさんの前に出す。そのまま、ハル君は俺を置いてどこかに行って、一人になった事に緊張して、下を向いてると「緊張してる?」と優しい声でトラさんが聞いてきた。 「···は、い」 「ごめんなさいねえ。ハルったらいつもああなのよ。もしかしてキツい言葉言われた?」 「···まあ、ちょっと···」 「やっぱり···あれね、あの子なりの優しさなんだけど、言葉を選ばないから人を傷つけることもあってねぇ。あ、ここに座って!コーヒー飲めるかしら?」 ゆっくり顔を上げてこくこく頷くと、柔らかく笑ったトラさん。俺は指定されたソファーに座って大人しくする。 「私はあまり眞宮組と関わりがないから、深くは知らないんだけど···梓君の恋人って眞宮志乃なんでしょう?すごくイケメンよね」 「え」 「あの男らしい感じがすごくタイプ。命って知ってる?ハルもだけど、命も男らしいから大好きなのよ」 「命さんもハル君も···確かに、すごく男らしくて、憧れます···」 「やっぱり!でもあまりそれを恋人の前で言っちゃダメよ!落ち込んじゃうから!」 コーヒーが目の前のテーブルに置かれる。有難く受け取って、ひと口飲めば美味しくて、肩に入っていた力がふっと抜けた。 「あ!そういえばここに今眞宮組の立岡って人がいるけど、会う?」 「え、立岡さんいるんだ···どんな具合なんですか?」 「んー···まあ、あの状態で動けてたのはすごいと思う」 苦笑するトラさんに、そんなに大怪我をしてたんだと心配になった。ちょっと考えていることが俺と違って、面倒臭がりで、マイペースだからあまり好きじゃなかったんだけど。 「もしかしたら眠ってるかもしれないから、後で行きましょうか。···ところで梓君は何か気になることでもあるの?」 唐突に来たそんな質問に、唖然とする俺を、トラさんは優しい眼差しで見てくる。 「怖いこと、辛いこと、忘れたいこと···それから、幸せなことに、楽しいこと···。気になること、ある?」 「···お、俺···」 「私は梓君の敵じゃない。それに今さっき出会ったわけだから、親しいわけでもない。でもそういう人にだからこそ話せることってあると思うの」 確かに、近い人に話せないことも、そうでない人には少しでも話すことが出来る気がする。 その言葉に頷いて、胸の中に潜ませてた言葉を吐き出した。

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