205 / 292

第205話

*** ガタガタとだんだん何かが崩れていく音が聞こえる。 「梓君、ご飯食べましょうね」 「···食べれないです。」 「じゃあせめてヨーグルトくらいは食べてね」 あの日から一週間。 夏目さんはまだ、目を覚まさないらしい。志乃が俺を迎えに来ないということはきっと、そういう事。 「トラさーん、痛み止めちょうだい」 「あ!もう!あんまり動いちゃダメだって言ってるでしょ!」 「だって暇過ぎるんだもんよ。梓君おはよ」 立岡さんは順調に快復してきている。 暫くはここに入院してトラさんにみてもらうって。 「それよか熱っぽいんだけど」 「あら、ならこっち来て体見せて」 「···トラさんが言うと卑猥に聞こえるのは何でかな。ねえ、梓君」 「そんなこと言ってると本当に襲うわよ」 「やだ、こわーい!」 普段なら笑えるようなことなのに、笑えない。どうしよう、またこんなダメな人間になってしまっている。 「そういえば今日、ハルが来るわね」 「あ、浅羽の若頭だよね。俺あの人のこと何か苦手なんだよなぁ。志乃と全然違うじゃん。隙全く無いし」 「そう?結構可愛いところもあるのよ」 「絶対嘘。怖いもん。志乃になら滅茶苦茶に言えるけど、あの人には無理」 「滅茶苦茶って?」 二人が話す様子をぼーっと見る。 どうやら今日はハル君が来るらしいけど、志乃は来る予定はないんだろうか。 夏目さんは大切な人だからそばにいたい気持ちはわかるけれど、俺だってそばにいてほしい。 「これ飲んでおいて。痛み止めだけど解熱剤も入ってるから」 「はーい。」 トラさんに渡されたヨーグルト。それとスプーンを手に取った時、廊下からドタドタとうるさい足音が聞こえてきた。 「トラぁぁっ!」 「あら赤石」 「燈人(とうり)と別れる!」 「また喧嘩したの」 赤石と呼ばれた金髪の男の人が部屋に入ってきて、大声をあげた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!