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第205話
***
ガタガタとだんだん何かが崩れていく音が聞こえる。
「梓君、ご飯食べましょうね」
「···食べれないです。」
「じゃあせめてヨーグルトくらいは食べてね」
あの日から一週間。
夏目さんはまだ、目を覚まさないらしい。志乃が俺を迎えに来ないということはきっと、そういう事。
「トラさーん、痛み止めちょうだい」
「あ!もう!あんまり動いちゃダメだって言ってるでしょ!」
「だって暇過ぎるんだもんよ。梓君おはよ」
立岡さんは順調に快復してきている。
暫くはここに入院してトラさんにみてもらうって。
「それよか熱っぽいんだけど」
「あら、ならこっち来て体見せて」
「···トラさんが言うと卑猥に聞こえるのは何でかな。ねえ、梓君」
「そんなこと言ってると本当に襲うわよ」
「やだ、こわーい!」
普段なら笑えるようなことなのに、笑えない。どうしよう、またこんなダメな人間になってしまっている。
「そういえば今日、ハルが来るわね」
「あ、浅羽の若頭だよね。俺あの人のこと何か苦手なんだよなぁ。志乃と全然違うじゃん。隙全く無いし」
「そう?結構可愛いところもあるのよ」
「絶対嘘。怖いもん。志乃になら滅茶苦茶に言えるけど、あの人には無理」
「滅茶苦茶って?」
二人が話す様子をぼーっと見る。
どうやら今日はハル君が来るらしいけど、志乃は来る予定はないんだろうか。
夏目さんは大切な人だからそばにいたい気持ちはわかるけれど、俺だってそばにいてほしい。
「これ飲んでおいて。痛み止めだけど解熱剤も入ってるから」
「はーい。」
トラさんに渡されたヨーグルト。それとスプーンを手に取った時、廊下からドタドタとうるさい足音が聞こえてきた。
「トラぁぁっ!」
「あら赤石」
「燈人 と別れる!」
「また喧嘩したの」
赤石と呼ばれた金髪の男の人が部屋に入ってきて、大声をあげた。
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