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第207話 志乃side
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もう一週間が経った。未だ目を覚まさない夏目を見ていると、こんな犠牲を払ってまで、俺は護られる価値があったのかと虚無感に襲われる。
親父からも、お袋からもお前のせいじゃないと言われたが、俺があの時ちゃんと周りを見ていればこんな結果にはなっていなかっただろう。
「若、少し休んでください」
「···神崎か。良い、お前こそ休め」
夏目の病室に閉じこもり、部屋にある机で仕事をしては、少し眠り、夏目の様子を見て、また仕事をする。
とてもじゃないが、この状態で梓に会える自信がなかった。
今、梓に会ってしまえば、折角保っている精神が崩れてしまう気がしてならない。誰にも見せてはいけない弱い部分が、きっと駄々漏れになってしまう。
「いい加減にしないと倒れますよ。夏目は俺が見ておくし、目を覚ましたら起こします。だから少しでいいので寝てください」
「···たまに寝てるから大丈夫だって」
「なら、梓さんに会ってきてください。立岡さんから連絡が来るたび、若を早く梓さんの前に連れて来るように言われてるんです。」
「···梓の様子は」
「···何も出来ない状態らしいです。あの人が若に心酔してるのは俺の目から見てもわかる。若が自分以外の誰かに付きっきりで、自分には少しも姿を見せてくれないと、あの人は崩れる。若が一番わかってるでしょう。」
責められることがこれ程面倒な事だとは思わなかった。
俺が若頭だなんていう立場じゃなかったら、なりふり構わず梓の元に行っていたかもしれない。けれど、この立場はそれを許してはくれないだろ。
夏目を見捨てるような行動や、自分のことだけしか考えない行動も、全部全部、許されない。
「···無理だ」
「無理って何ですか。俺が車を出します、今すぐ行けるじゃないですか」
「···無理だって言ってんだろ!!」
机に拳を打ち付ける。大きな音が鳴って、その後訪れたのは規則的な機械音だけ。
「···すみません。差し出がましいことを言いました。」
「はぁ···いや、悪かった。」
立ち上がって病室を出ようとする俺に「何処に行くんですか」と神崎が聞いてくる。
「煙草吸ってくる。」
「わかりました」
胸が圧迫されるような違和感。
小さい頃、冴島の家に初めて泊まりに行った時に1度だけ感じた”早く家に帰りたい”という感覚。
溢れ出るそんな感覚を消し去るように、煙草を吸って気持ちを落ち着かせた。
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