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第208話

煙草を吸って病室に戻る。 先程と変わらず夏目は目を覚まさないでいて、神崎も椅子に座り、その様子を見ている。 「もうすぐで速水が交代で来ます。···本当に梓さんのこと、いいんですね」 「···くどいぞ」 「すみません。わかりました。」 そして暫くして速水がやって来て、神崎は帰って行く。 「起きないかぁ。夏目ぇ、いい加減に起きないと若が倒れるよー。お前の好きな若が!」 「···速水、あんまり大声出すな」 「すみません、でもなんか···若が疲れきって死にそうなんですもん」 「疲れてねえよ。それよりお前、自分の仕事は?持ってきてるならここでしてもいいぞ」 「終わらせてきました!そうだ若、珈琲いれますね!」 その言葉にありがとうとだけ返し、夏目のそばに寄る。 「早く起きろ」 傷のある手を撫でながらそう言うと、夏目の瞼がピクリと動いた気がした。 はっとして、名前を何度も呼び掛けると、今まで閉じていた瞼が、ゆっくりと開かれる。 「···っ」 ゆっくりと瞳が動いて、最後に俺を視界に入れた夏目。 酸素マスクに覆われた口元が、志乃さん、と動いた気がした。

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