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第211話

「お疲れ様です」 燈人さんが立ち上がり、ハル君にそう言う。 明らかに燈人さんの方が年上なのに。逆にハル君は「お疲れ」と一言言った。 「今日は仕事じゃねえしいいよ。で、どうだ梓」 「あ···えっと、」 どうやらここにいる中で一番立場が上なのはハル君らしい。難しいなと思っていると突然話を振られて困ってしまった。 「梓君とは俺が話してたんだけどね、恋人さんに話しに行こうってなったよ。殴ってもいいよって!」 「···赤石、お前またそんな···」 「言葉での会話が通じないなら拳で語れってね!」 ハル君が呆れた様子で赤石さんを見る。でもそれはハル君だけじゃなくて、命さんも、燈人さんもだった。 「そんな白けた目で見ないでよ!」 「···まあいいや、とりあえず梓、話しに行くつもりなら連れて行ってやるけど」 「···まだ話す内容纏まってない」 「じゃあ纏まってからだな。で、燈人に赤石は何してんの」 ハル君がそう言うと燈人さんが赤石さんを睨みつけた。 「こいつが家出したから迎えに来た」 「家出した理由はお前だよ」 「お前···今俺のことをお前って言ったな」 「言うでしょ。燈人だってさんざん俺のことをお前とかこいつとか言うじゃん」 「亭主関白は流行りだろ」 「んなわけねえだろ死ね!」 赤石さんが燈人さんに怒鳴り、ハル君も白けた目で燈人さんを見る。 「亭主関白はねえわ。愛情は態度で示すのが一番だろ。な、命」 「そうですね」 命さんはあまり興味が無いのか、トラさんに入れてもらった珈琲を飲んでいる。 「トラに話があってきたんだが···悪い、違う部屋に」 「ええ、じゃあ皆はここで寛いでてねぇ」 ハル君がトラさんと一緒に部屋を出て行く。 その様子を見ながら、この中に残して欲しくなかったなぁと、喧嘩をしている赤石さんと燈人さん、我関せずな命さんを見てそう思った。

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