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第212話

喧嘩はまだ続いていたので、俺は命さんの方に自然と体が近付いていく。 「どうしました?」 「あ···えっと、いや···」 「···あー、慣れてないとこの雰囲気って困りますよね。すみません」 「いや、困ってるとかじゃないので···」 まあ、楽しく話を出来る様子ではないから、居にくいっていうのはあるんだけど。 「赤石ってね、元々浅羽の幹部なんですよ。」 「あ、それ前に誰かに聞いたかも···」 「すごい遊び人で、一夜の相手にって声をかけたのが燈人さん。」 「···すごい度胸ですね、俺なら声掛けられない」 「普段から見た目が厳ついやつと接してるから、慣れてるんですよ。」 命さんの言葉に成程、とひとつ頷く。 「それから色々あって恋人になったんですけど、相手が若頭で跡継ぎがいるってなって、その時あいつは潔く身を引いて死のうとしました。」 「え···」 言葉を失って、命さんを見る。 さっき、赤石さんの言っていた諦めようとしたっていうのは、その事だったのか。 「死のうとしたところを、燈人さんが迎えに来たから止めることが出来ました。今は結局二人でああして仲良くしてます。」 「···何でそんな話を?」 「···さあ。でも、どんな時でも希望はあるんですよ」 喧嘩は収まったのか、燈人さんに抱きしめられてる赤石さん。 「目の前でイチャつかれるのって腹立ちますよね。俺だってユキとイチャつきたい」 「···命さんもそういう事言うんですね」 「普通に言いますよ。燈人さんが同盟の若頭じゃなかったら箱ティッシュ投げてました」 「なんで皆そんなに暴力的なの···」 そうして話をしているとハル君とトラさんが戻ってきた。そして二人とも何故か難しい顔をしている。 「───起きたらしい。」 その言葉を聞いて夏目さんの事だとわかり、バッと勢いよく椅子から立ち上がる。もうすぐ志乃が迎えに来てくれるって思うと、嬉しくて胸が高鳴った。

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