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第213話
「まだ今は検査してるらしいけど、行くか?」
「行きたい」
「なら、先に言っとく。···あまり期待するなよ」
「どういうこと···?」
ハル君のいう言葉の意味がわからない。考えていると「梓さん」と命さんに声をかけられた。
「さっき言った通り、どんな事があっても、希望はあります。俺はそれを知ってる。」
「···あの、それってどういう···」
「何かあれば、きっとここに居る全員はあなたのことを助けることが出来る。それだけは覚えていてください」
「は、はい」
命さんの言葉に頷いて、ハル君の方を見る。その顔はやっぱり険しい。
何があるっていうんだろう。夏目さんが起きたんだから、志乃は俺と家に帰れるのに。
少ししてから夏目さんと志乃のいる病院に行くことになり、ハル君と命さんと一緒に車に乗った。
病院に着くとドキドキして、思わず溜息を吐いてしまう。
「どうした」
「いや···なんか、緊張しちゃって」
「そうか」
病室までの道のりが長く感じる。
やっと着いたそこのドアをノックし、速水さんの「はい」と返事をする声が聞こえてきて、中に入った。
すぐそばにいた速水さんに軽くお辞儀する。その奥にいた疲れきった様子の志乃と目が合った。
「···梓」
「あの···ハル君と命さんも一緒に来たの。···夏目さんは?」
志乃が前にいるから夏目さんは見えない。正直志乃に会いたいがために来て、最低だけれど夏目さんの様子を聞いたのは、もう志乃を帰してもらえる様子か知りたかったから。
「今は──······」
「志乃さん、梓さんが来てくれたんですか」
「···ああ」
夏目さんの声が聞こえて、寝ているであろうベッドに近付く。そこには痛々しい姿の夏目さんがいて、胸がキュッとなった。
「夏目さん」
「梓さん、ごめんなさい、心配かけて」
「そんなのいいんです。それより···志乃を護ってくれてありがとうございます」
「···いえ。俺の、大切な人だから」
その言葉になぜか違和感を持って、素直に喜べない。貼り付けたような笑顔が取れなくて、そのまま志乃を見ると、志乃は俺から視線を逸らした。
「志乃、夏目さんも意識が戻ったし、1回家に帰ろ。志乃もちゃんと休んで──···」
「悪い、まだ無理だ」
「···何で」
俺を拒むかのようなその態度。言葉。全てが気に食わない。
「志乃」
「···梓、悪いけど帰ってくれ」
「···なんで」
志乃の心がわからない。
どうして俺にそんなことを言うの。久しぶりに会えたのに。
「志乃···?」
「晴臣さん、すみません。暫く梓のこと···」
「志乃っ!!」
勝手に話を進める志乃。腹が立って名前を呼び、その体にドンッと詰め寄った。
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