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第214話 志乃side
体も心も疲弊してることがわかる。
夏目が目を覚ましたことは嬉しいのに、同時に襲い掛かってきたのは、またいつか夏目を失ってしまうような危険が訪れるのではないかという恐怖。
「志乃っ!何で!」
それが、梓と一緒に居ることで消えてくれるはずは無い。消せる方法は1つだけわかっている。
「夏目といれば、安心できる」
自分の目でそこから居なくならないか見ていれば、その恐怖は和らぐ。
「···な、なに、それ」
「悪い、今は一緒に居られない」
「············」
俺は完璧じゃない。
それこそ、ここに何も言わずに立っている晴臣さんみたいに、何でも冷静に対処できて、自分の感情さえ抑え込むような、そんな真似はできない。
でも仕方が無いだろ。これが俺という人間だから。それを責める筋合いは、梓にも、俺自身にも無い。
「志乃は···俺じゃなくて、夏目さんを選ぶの」
「···この話は夏目の前ではもう止めよう」
「答えてよ。じゃなきゃ帰らない。」
今にも泣き出しそうな梓が、睨みつけるように俺を見た。
これから先、ずっと夏目を選ぶわけじゃない。
ただ、この時だけは許して欲しい。俺がこの恐怖から少しでも逃げられるように。
「···夏目を選ぶよ」
発した言葉に後悔は無い。
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