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第215話 梓side
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「梓君、今日は楽しい?」
「うん、楽しい」
志乃が夏目さんを選んだ日から2週間が経った。今はもう、志乃のことはいつか戻ってくると信じながらも、殆ど諦めて1人で志乃の家で過ごしてる。
時々様子を見に冴島さんやハル君に陽和君、それに親父さんが来てくれる。
今目の前にいる冴島さんは今回の事を誰から聞いたのかは知らないけれど、全て知っているらしい。
「そう。最近よく出掛けてるみたいだけど、どこ行ってるの?」
「···秘密」
「秘密かぁ。」
志乃はもしかしたら、これから先もずっと夏目さんを選ぶのかもしれない。
そうなれば、俺はどうやって生きればいいんだろう。
この体はもう志乃無しでは生きられないとわかっているから、他に志乃の代わりになるような何かが必要で、それを探し回ってる。
そんなこと、冴島さんに言えるはずはない。
「ヒント教えてくれない?」
「ヒント···自分でもわからないから、探してる」
「探してるの?それは···物?人?」
「···わかんない」
志乃の代わりになるものなんて在るのかな。志乃の立場の代わりはいても、志乃そのものの代わりなんて居ない。だから、いくら探しても俺の求めるものは見つからない。
「俺ってそんなに駄目なのかな···」
「梓君?」
「俺が志乃を護ることもできないから、志乃は俺のそばに居てくれないのかな。でも護らせてくれないのは志乃なのに、何で」
ボロボロ溢れる言葉は全てマイナスなもので、だから気持ちは余計に暗く沈んでいく。
「違う人、見つけた方がいいのかな」
「···違う人かぁ」
「そうしたら、こんなに辛い思いをしなくて済むでしょ」
「そうだね。俺はそれも···良いと思うよ」
冴島さんが言うならきっと、それは悪い事じゃないんだろう。
全部をリセットして、新しく自分を作っていく。そんなことが出来るのかはわからないけど、今初めてそう出来てほしいと思った。
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