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第219話

演奏が終わり、席を立つ。 お会計をしようとしたら、健人がお金を払ってくれて、後で返さなきゃなと思う。 店を出れば外はもう暗くて、人気も少なかった。 「なあ、梓、聞いていい?」 「うん」 「梓の恋人って···男?」 「ぁ、え、な、なんで···」 もしかしてさっき、いつの間にか男って言っちゃったのかな。思い出せなくて焦っていると健人がケラケラと笑い出した。 「梓が言うてたとかやないよ。ただ女やったら大体彼女って言うし、やから男なんかなぁって」 「···引いた?」 「引く?何で。人を好きになることはいい事やのに。それは相手が同性でも異性でも変わらんよ」 健人はそう言って俺の手を掴む。 やっぱり健人の手は温かい。 「それに、俺はどっちでもいけるねん。」 「あ、そうなんだ」 目尻にまだ残っていた涙を拭う。その時掴まれた手を引かれ、健人の肩に鼻が当たって少しだけ痛みが走った。 「っ、健人···?」 「梓の恋人が、違う人を選んでる間、梓は俺を選ばへん?」 「···な、に?どういうこと···」 健人の言葉の意味をうまく理解できない。志乃と一緒に居れない間、健人と居ろってことだろうか。 「辛いなら、俺に逃げといで。」 「······逃げ、る」 「そう。泣くほど辛いなら逃げよう」 体が離れて、健人に肩を持たれる。 「嫌なら殴って止めて」 顔が近づいて唇に触れる他人の体温。それは嫌とは感じなくて、少しだけ志乃の代わりを見付けた気がした。

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