220 / 292

第220話 志乃side

「志乃さん、俺はもう大丈夫ですよ」 「···ああ」 「家に帰って、休んでください。梓さんも待ってるだろうし」 「···でも、お前から離れると不安になる」 夏目が苦笑を零し、それが傷に響くのか眉を寄せる。その様子に申し訳なく思った。 晴臣さんにも、俺のしていることは梓に対してあんまりだと怒られた。けれど怖い事を拭うためにする行動はそんなにいけないことなのか。 「今日、天気いいですよ。外に出かけてきませんか?」 「···仕事する」 「もう、休んでくださいってば」 夏目が呆れたような声でそう言うから、聞こえないふりをして下を向く。 そんな時、病室のドアが開いて、振り返った。 「冴島?」 「···梓君、来てないか」 「···来てねえけど」 焦った様子の冴島に、何かあったのだと察して、次の言葉を待っていると踵を返して帰ろうとするから、慌てて冴島の腕を掴み止めた。 「何があった」 「お前に言っても意味が無い。他を当たる」 「···梓が居なくなったのか」 「ずっと、何かを探してる。もしかしたらそれが見つかったのかもしれない。」 「どういう事だ」 手を振り払われ、力なく落ちた手を見る。 「このヘタレが。お前がそんなんだから周りは傷つくんだよ。お前だけが辛いわけじゃねえ」 「············」 「兎に角、梓君がここに来たなら連絡しろ。」 「···わかった」 苛ついた様子で帰って行った冴島。夏目は「大丈夫ですか」と聞いてきたけど、上手く返事ができなかった。 「志乃さん?」 「···悪い、大丈夫だ」 本当は探さなければならないのに、行動ができない。 拳を強く握り息を吐く。 「志乃さん、きっと大丈夫ですから、そんなに思いつめないで」 その言葉は少しでも気持ちを楽にしてくれるはずなのに、焦るような気持ちがおさまることは無かった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!