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第221話 梓side

*** 健人と初めて会った日から2日目の朝。 「ほらぁ、ちゃんと食べなあかんの。また残しとるやんかぁ」 「んぅ···眠たいから、食べれないの」 「食べさせたるから、噛んで飲み込み。わかった?」 「···わかった」 健人の家に転がり込んで、帰らないでいる。 借りた服は、志乃とは違って少し甘い匂い。 「はい、あーん」 「あー···」 咀嚼して飲み込む。少しずつお腹がいっぱいになって、残していたご飯が無くなる頃には満腹でお腹がはち切れそう。 「ぅ、お腹いっぱい···」 「それはええ事やな。ご馳走様したら···今日はどこか出掛けるか?それとも家おる?」 「···健人は何するの?」 「俺はお家で仕事。」 「仕事···何してるの?」 「小説書いてる」 手を合わせてご馳走様と言うと「いい子やね」と頭を撫でられた。 「小説?」 「そう。これでも作家やねん。」 「どんな本書いてるの?」 「んー···あ、こんなん」 本棚に置いていた本を1冊抜き取った健人。渡されたそれはすごく有名で、以前俺が読んでいたやつだった。 「これ···俺読んでた。凄く楽しくて、止まらなくて」 「へえ、嬉しいな。それも俺が書いたやつ」 「···健人のことなめてた」 「そんなん別になんでもええよ」 ケラケラ笑った健人が、俺の手から本を取る。 「2時間だけ仕事するから俺はそっちの部屋こもるけど、用があったら来てくれてええし、自由にしとき」 「···部屋こもっちゃうの」 「あれ、寂しい?」 馬鹿にしたみたいな顔をするから、そんな事ないと意地を張る。そうして顔を背けると、肩を掴まれぐいっと引かれて、気が付けば目の前に健人の顔があった。 「寂しかったらおいで」 「っ」 キスをされて、体温が高くなるのを感じる。 食器を洗いにキッチン行った健人の背中を見ながら、口元を手で覆った。

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