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第223話
昼からは健人と一緒に外に出かけた。
「梓、離れたあかんよ」
「···俺子供じゃないよ?」
「そんなん知ってるけど、ほらなんか···梓ってほっといたらあかん気がするから」
「そうなの?ちゃんと成人してるのに」
小さな声で呟くように言うと、健人が笑って俺の手を握る。
「俺が梓と一緒に居たいから、そう見えただけかも。」
「ふふっ、健人は優しいね」
「何か欲しいものある?とりあえずご飯作ろうにも材料ないからそれ買いたいんやけど」
「俺は無いよ。早く材料買って帰ろうよ」
健人の手を引っ張って、そう言うと健人は頷いて、俺より前を歩いていく。
「何食べたい?」
「うーん、カレー!」
「はーい。じゃあ俺頑張ってカレー作りまーす」
「お願いしまーす」
健人との会話は楽しくて、気分が弾む。
今は志乃のことも、夏目さんのことも、俺を心配してくれている人のことも、何も考えずにいた。
***
「ご馳走様でした」
「ん。お皿置いとき、お風呂入っといで」
「ううん、お皿は俺が洗う。健人こそ仕事もしたし疲れたでしょ。お風呂入っておいでよ」
そう言うと健人は困ったように笑った。
「じゃあ梓に甘えよっかな」
「うん。」
ご飯を食べ終え、手を合わせた健人はお皿を持ってキッチンの流しに運ぶ。それから着替えを取りに行って風呂に向かう健人。俺の目の前に立ってまた、困った顔で笑う。
「梓、わかってる?」
「···え、ぁ···」
「今日、梓のこと抱くよ」
「···うん、わかってる。」
ヘラって笑ってみせると、安心したように息を吐いた健人。
お風呂に行った健人の背中を見送り、俺は皿洗いをした。
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