227 / 292

第227話

そこは家から随分離れた場所だった。 護衛の為にと神崎が車を出して俺についてくる。 「若」 「何だ」 「梓さんの幸せだと感じる方に居させてやってください」 「···そんなの、わかってる」 でも、それでも梓はそばにいてほしい。 自分の都合で梓を傷付けたことはわかっている。 「ここです。」 「ありがとう」 とあるマンションの前で車から降りる。 エントランスの方へ足を向けたその時、エントランスからでてくる2つの影。 「やって甘いの食べたないん?俺甘いの大好きやねんけど」 「食べたいけど···今日はなんか、家出たくなかった」 「そんなん言わんでや」 ケラケラと笑う男と手を繋ぎ、少しムスッとした顔をしている梓の姿。 2人が俺の存在に気付き、梓は慌てて歩みを止め、男の手を引っ張ってマンションに戻ろうとする。 「梓」 「来んな!!」 名前を呼べば拒否されて、足を進めることも出来ず、退いていく梓のおかげで、ずんずんと距離が開いていく。 「梓?あーもう、そんな顔して。」 「···今日は甘いの諦めて」 「うん。ええけど···泣かんで」 男の言葉から梓が泣いていると知って、止めていた足を前に前に突き出した。 「梓」 「···っ、来んなって、言ったのにっ」 「俺は···いつもお前を傷つけちまう」 「そうだよ!!志乃のせいで、もう···っ、」 背中を向けて話す梓に触れることが出来ない。男は俺の存在が梓にとってどういうものか察したようで、困ったように笑った。 「あー、とりあえず帰ってくれませんか?泣いてもうてるし、落ち着いた時に話しに来てくれたらええから」 「···お前、名前は」 「井手上健人。あんたは?」 「眞宮志乃。また来る」 「志乃さんね。よろしく」 「梓の事、少しの間頼む」 必ず梓をまた迎えに来る。俺のそばに戻ってきてくれるように。 「梓、ごめん」 「···っ、」 そう言って車に戻ると神崎に「帰りますか」と聞かれ、家に帰る事にした。そういえば冴島がずっと探していたなと、冴島に連絡をしながら。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!