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第227話
そこは家から随分離れた場所だった。
護衛の為にと神崎が車を出して俺についてくる。
「若」
「何だ」
「梓さんの幸せだと感じる方に居させてやってください」
「···そんなの、わかってる」
でも、それでも梓はそばにいてほしい。
自分の都合で梓を傷付けたことはわかっている。
「ここです。」
「ありがとう」
とあるマンションの前で車から降りる。
エントランスの方へ足を向けたその時、エントランスからでてくる2つの影。
「やって甘いの食べたないん?俺甘いの大好きやねんけど」
「食べたいけど···今日はなんか、家出たくなかった」
「そんなん言わんでや」
ケラケラと笑う男と手を繋ぎ、少しムスッとした顔をしている梓の姿。
2人が俺の存在に気付き、梓は慌てて歩みを止め、男の手を引っ張ってマンションに戻ろうとする。
「梓」
「来んな!!」
名前を呼べば拒否されて、足を進めることも出来ず、退いていく梓のおかげで、ずんずんと距離が開いていく。
「梓?あーもう、そんな顔して。」
「···今日は甘いの諦めて」
「うん。ええけど···泣かんで」
男の言葉から梓が泣いていると知って、止めていた足を前に前に突き出した。
「梓」
「···っ、来んなって、言ったのにっ」
「俺は···いつもお前を傷つけちまう」
「そうだよ!!志乃のせいで、もう···っ、」
背中を向けて話す梓に触れることが出来ない。男は俺の存在が梓にとってどういうものか察したようで、困ったように笑った。
「あー、とりあえず帰ってくれませんか?泣いてもうてるし、落ち着いた時に話しに来てくれたらええから」
「···お前、名前は」
「井手上健人。あんたは?」
「眞宮志乃。また来る」
「志乃さんね。よろしく」
「梓の事、少しの間頼む」
必ず梓をまた迎えに来る。俺のそばに戻ってきてくれるように。
「梓、ごめん」
「···っ、」
そう言って車に戻ると神崎に「帰りますか」と聞かれ、家に帰る事にした。そういえば冴島がずっと探していたなと、冴島に連絡をしながら。
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