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第230話
志乃が来た日から3日経った。あれ以来、志乃と会うことはなくて、少し寂しさを感じてる。あの時、俺が”来るな”なんて言わなければ良かったのかもしれない。
「梓、はい、あーん」
「あー···」
近所にあった手作りプリンのお店で買ったプリンを健人に食べさせてもらいながら、そんなことを考える。
さっきまでまた仕事をしていた健人。作家さんは忙しいらしく、今日は2時間どころか、倍は部屋にこもっていた気がする。
「健人の書いてるお話って、切ないのが多いね」
「あー、そうやな」
「楽しいのは書かないの?例えば···ファンタジーみたいな」
「俺が!?ファンタジー!?無理無理無理。ジャンルがいきなりぶっ飛びすぎやわ。そんな高度な技術はありません!」
「そう?健人の書くそんなお話、俺は読んでみたいけどな」
そう言うと眉間に皺を寄せて何かを悩み出した健人に、もしかして余計なことを言ったのかもしれないと思って「ごめん」と謝る。
「え、何が?俺なんも悪いことされてへんで」
「ならいいや」
「なんやねん」
ケラケラ笑って、プリンを一口食べた健人に、「俺も」と言って口を開ける。
「甘えたさんやねぇ」
「だって健人がプリンとスプーン持ってるんだもん」
「まあ、俺とおる時くらいドロドロに甘やかしてやりたいからな」
何だそれ、と笑うと口の中にプリンが入ってきて、優しい甘さを味わって飲み込んだ。
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