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第231話
志乃が俺の前に再び現れたのは翌日のことだった。
ちゃんと目を合わせられないのは、今まで放置していたくせにと思っているのと、志乃以外の人とセックスしたという罪悪感から。
「梓」
「···な、何」
健人の家に上がり、テーブルの席について、志乃が真正面にいるのに、俺の視界に映るのは自分の膝と、手だけ。
「梓、話する時は相手の顔見なあかんねんで。じゃあ俺多分、2人の話の邪魔になるから部屋おるな」
「え、健人···」
「喧嘩せんと話すんねんで」
「···うん」
健人はいつもの仕事をする部屋に入っていき、志乃と2人きりになる。
「悪かった」
「···何が」
何が悪かったのか本人がわかってないなら気軽に謝らないでほしい。
それに、俺だって志乃が悪かったなんてあんまり思ってない。志乃にとってはそれが正しい選択だったのだと思うし。
「···俺は志乃が正しいと思ってしたことなら怒らないよ。ていうか正直、俺自身も怒ってるのかどうかわかんない」
「···どういうことだ」
「多分···ただ寂しかっただけ。寂しかったから、1人にしないでほしかっただけなの」
それを志乃にはわかっていてほしくて、だからこんなに悲しかったんだと思う。
代わりの何かに縋り付きたいほど、心が崩れた。
「···お前を1人にした事は一番、悪かったと思ってる。自分がどんな状況であれ、お前を何よりも気にかけなきゃいけなかったんだ」
そう言われて視界が潤んだ。
言葉にしてくれなきゃ志乃が何を思っているかなんて俺はわからない。
きっと、夏目さんが自分の代わりに犠牲になった事を悔やんでいたんだろうけど、そこから先の志乃の感情は知らない。
そして、今何よりも知りたい。
「志乃の···今、一番大切にしたいのは何」
そう言うと志乃は険しかった顔を少し柔らかくさせた。
「一番大切なのは、梓だよ」
溜まっていた涙が零れて、頬を濡らした。
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