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第233話 志乃side
家に帰る車内は静かだ。
話す内容を考えはするけど、それが口から出ることはない。
「志乃、青」
「···ああ」
信号が変わったことに梓の言葉で気付く。車をしばらく走らせるとやっと見慣れた風景が目に入った。
「志乃」
「何だ」
「···俺はすごく寂しかったけど、志乃は?」
突然梓にそう聞かれ、思わず梓をばっと見た。
「···寂しいというより、怖かった」
「は?」
「漠然と恐怖だけがあった。それは夏目が目の前に居てもだ。お前と会ったらそれは和らぐんだ。だから···今お前が隣にいるから、怖くない」
「···嬉しい」
梓がふんわりと笑う。その笑顔は可愛らしくて、今すぐ手を伸ばし抱き締めたくなる。
俺と離れて井手上と一緒にいた間、井手上と梓がどんな関係だったのかは、気にはなるけれど、俺が招いた事だしそれは仕方がない。
帰ってきてくれただけでもう十分だ。
「あ、そういえば俺···誰にも何も言わず健人のところにしばらくいたんだけど、大丈夫かな」
「大丈夫だ。それより···お前を見ていてくれてた医者の···トラ、だったか?その人に挨拶に行かねえと」
「あ、トラさんのところにいる時に桜樹組の人に会ったよ。燈人さんと赤石さん」
そういえば桜樹組は浅羽組と仲が良かったなと思い出す。どうやら医者のトラは浅羽とも桜樹とも仲がいいらしい。
「でも1回帰ってちょっと休もうよ。何か疲れた」
「そうだな」
しばらくは梓の好きなようにしてくれたらいい。
隣に梓がいるだけでこんなにも心が落ち着くのだと知って頬が緩んだ。
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