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第234話
家に着き、梓は走ってリビングに行く。
俺は靴を脱いで揃え、廊下をゆっくり歩いていると、リビングからまた走って戻ってきた梓が俺に抱きついてきて、勢いが良すぎてよろけてしまった。
「梓?」
「志乃···キスして」
「ん」
梓の顎を掬い、背中を屈めてキスをする。
久しぶりのそれは少し甘く感じた。腕を回して梓を抱きしめ、逃げられないように顎に触れていた手を梓の後頭部に回した。舌を絡めるとだんだん苦しくなってきたのか、薄く開いた梓の目に涙が溜まっていく。
「···ん、ふ···っ」
「苦しい?」
「···っ、はぁ、苦しかった···っ」
「可愛い」
もう一度キスをする。梓はそれを受け入れてくれて、止められなくなる。
「ぁ、ふ···ぅっ、し、の、志乃っ」
「···悪い」
「んっ、いいけど…っ」
梓の手を掴み、リビングに移動する。しばらく離れていたから、ずっと触れていたくて手が離せない。
不思議そうに俺を見上げる梓に、少し恥ずかしいと思いながら口を開いた。
「···お前が、嫌って思わないなら···しばらくこのままでいたい」
「ふふっ、嫌じゃないよ」
繋いだ手を梓がぎゅっと握る。
ずっと張り詰めていたものが緩んで、胸あたりが苦しいような、そんな感覚になる。
「···っ、」
「志乃?え、ぁ···ど、どうしたの?悲しいの···?」
「え···」
梓が焦ったように俺の頬を撫でる。
「泣いてるよ。疲れたもんね、休もっか」
「···泣いてたか」
「···泣いてたよ。ずっと頑張ってたんだね。それなのに···ごめんね、俺···」
ずっと問題にしてた組の抗争の後始末は、やっと終わったような気がして体から力が抜けていく。ソファーに座ると隣に梓が来て、手は繋いだまま、俺にもたれかかった。
「志乃、泣いてもいいから、1人で抱え込むのはやめてほしいな。俺···言われないと志乃の気持ちがわからないから」
そう言われると、たくさんの感情が溢れ出そうになったけど、ふっととある言葉だけが勝手に落ちていく。
「···疲れた。」
そう言うと梓は泣きそうな顔をして、俺を抱きしめた。
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