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第239話 志乃side

朝起きた時から体が変だなとは思っていた。 疲れてるだけだろうと、気にはしていなかったのに、熱があると言われると一気に体がだるくなって動くのも億劫になる。 現実なのか夢なのかわからない世界で、目を開ける。そこには梓がいて、もう現実でも夢でも、梓がいるなら何でもいいと思う。 「梓」 「うん。どこか辛い?」 「···梓、」 目の前にいるのは、愛しい恋人。 ある日突然姿を消して、俺がずっと探していた人。 記憶を失くして、けれど思い出してくれた人。 弱った頭ではどうしてか、いつもの思考に至ってくれない。 切ない気持ちになって、俺の方から梓から離れていたのに、二度と離れて欲しくなくて、いつかまた昔のように忽然と姿を消してしまうんじゃないかって、不安になる。 「志乃、泣かないで。大丈夫だよ」 「···行かないでくれ、どこにも」 「行かないよ。志乃が大好きだから」 「お前が、消えそうで···怖い···」 「消えない。俺が志乃の前から消えることは無いよ」 手を握られて、「安心して」と微笑まれる。 涙の零れる目尻をそっと撫でられ、額にキスされるとほんのりと胸辺りが暖かくなった。 「ずっとここにいるからね」 「···あり、がとう」 頬を滑る手が心地良い。 目を閉じるとすぐに眠気がやってきて、意識がプツンと途切れた。

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