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第242話
「怖いって···?」
「さあ?自分の胸に聞いてみてよ。それより信号青だよ」
「···悪い」
車を走らせ、マンションについて車を降りた。
志乃と一緒に家に入り、靴を脱いで廊下を進む。
「梓」
「んー?」
振り返ると、志乃はまだ玄関にいて、どうしたんだろうと不思議に思う。
「···俺は······」
「志乃、話は中でしよう?病み上がりだし、ね?」
「···本当のこと、話したい」
あの志乃が小さな男の子に見えた。
街で噂されている志乃とは全く違う。玄関まで戻って、志乃の手を掴む。
「こっち、来て」
そう言うと靴を脱いで素直に俺の言葉に従ってくれて、リビングに行ってソファに座らせる。
「本当のことって、何?」
小さな子供に話しかけるように、優しくそう言えば揺れる瞳が俺を見た。
「···お前を、街で見つけて、初めてこの家に連れてきた時から、ずっと思ってたこと」
「うん」
そんなに前から、志乃は何かを抱えていたんだ。全く気づくことの出来なかった自分が嫌になる。
「あの時から、不安だった。また···またお前が、俺達の知らない間に、俺達の前から消えたらどうしようって」
「············」
トラさんの所で言っていたことは、このことに繋がっていたのかもしれない。
「どうしたら繋ぎ止めておけるのか、わからなくて···酷いことをしてた。逃げないように拘束はしたし、監禁だってした。無理矢理抱いたのも、今考えれば、俺のものにしたかったから」
「うん」
「···ずっと、不安なんだ。誰かにこの気持ちを伝えたことなんて無い。そもそも伝えようと思ったことも無い。俺の弱味は、眞宮組を崩壊させるかもしれねえから」
”眞宮組を崩壊させる”
その言葉が、志乃にどれだけの重荷が掛かっているのかを表した。
俺のことを無しにしても、志乃は常にそういう不安に襲われている。
自分の行動ひとつで、眞宮組が危険になるかもしれないと。自分以外の誰かが傷付くかとしれないと。
「だから、誰にも言えなかった。多分ずっと昔から。親父にもお袋にも話していない。自分達を責めてしまうかもしれないから」
「志乃···」
誰よりも周りを考えての行動だった。今回のことはそれが空回りしてしまったのだ。
俺が、志乃の本当の部分を知らなかったから。結果、周りを巻き込んで、自分勝手に動いているように見えてしまった。
「結局···俺が全部悪い。誰にも話さないことが護る事だと勘違いしてた。···今更知るなんて馬鹿だよな」
自虐気味に笑った志乃に、胸が締め付けられる。
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