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第243話

そんなことはないって伝えたいけれど、俺はさっき確かに、自分の気持ちを隠してばっかりだ、と志乃に言った。今否定すれば、それすら否定することに思えて、伝えられない。 「これからは教えて欲しい。」 「···そうだな」 「志乃の怖いことからは、俺が護ってあげる。」 「梓が?」 「うん。その代わり、俺の怖いことからは、志乃が護って」 そう言うと志乃は一度頷いてくれた。それから俺を抱きしめて何度も”好き”をくれる。 「梓、抱きたい」 「病み上がりだからだめ。お願いだから今日は休んで。」 「···明日、桜樹さんに挨拶に行ってからなら、いいか?」 「うん。いいよ」 俺が志乃に離れてほしくないのと同じで、志乃も俺を繋ぎとめておきたいんだと知る。 いくつも間違って、ここまで遠回りを繰り返したけれど、そこから得られた物もあって。だから腹は立つけど、嫌いにはならない。 「ほら、休もう」 「···梓も」 「いいよ」 一緒に寝室に行きベッドに入る。 しばらく志乃と何でもない話をしていたけれど、気が付けば眠っていて、俺が起きたのは一時間が経った頃。 志乃はまだ眠っていて、無防備な寝顔が可愛らしくて、そっと唇にキスを落とした。 *** あれから俺は1人で起きて、料理のサイトを見ながらご飯を作った。それからお風呂も沸かして、洗濯物だって片付けた。 夜になると志乃が起きてきて、寝惚けてるのか、ソファに座る俺の背中側から抱きしめてきた。 「梓」 「うん、おはよう。体どう?」 「···もう大丈夫」 顔だけ振り返って、見えた頬にキスをする。 「俺、ご飯作ったんだ。食べる?」 「ご飯···食べるけど、先に風呂入ってくる。」 「わかった」 「梓も入ろ」 ···これは、甘えられてるのだろうか。もしそうなら可愛らしい甘え方だ。 「いいよ、入ろっか」 手を離させて立ち上がり、着替えを持って風呂場に行く。 服を脱いで志乃と中に入って温かいシャワーを浴びた。 「志乃ー、先浸かって温まる?」 「いや、先洗う。···洗って」 「俺が?」 「ああ」 これも、甘えられてるのかな。 「仕方ないなあ」 口先ではそう言いながら、凄く嬉しい自分がいる。志乃の髪を濡らして柔らかくて綺麗なそれにシャンプーをつけて泡を立てる。 「気持ちいい?」 「···ん」 人に頭を洗われるのって、俺はすごく気持ちいいから好き。志乃もそう感じてるのか、返事をしてくれた声が少し甘いものだった。 泡を流して、今度は志乃の体を洗っていく。それは自分でやるってうるさかった志乃も、俺が強引に洗っていくと受け入れてくれた。 「···抱きたい」 「それはさっきダメって言った」 「ちっ」 「舌打ちしてもダメ!···そんなに溜まってるなら抜いてあげる、けど···」 「いらねえ。溜まってるとかじゃなくて、お前に触りたかっただけ」 なんか···感動する。 あの志乃がこんなにはっきり自分の気持ちを俺に伝えてくるなんて。 さっきそうして欲しいと言った甲斐があった。 「今は我慢する。けど明日は絶対我慢しない」 「何それ、優しくしてよ?」 「優しくはする」 少し拗ねているのか唇がムッとしていた。そこにキスをすれば俺をジト目で見て来たので、思わず笑ってしまったのだった。

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