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第244話
翌日、すっかり元気になった志乃は、ハル君に電話をした。
ハル君は燈人さんとの話の場所を設けてくれて、指定された時間に桜樹組にハル君も一緒に行く。
桜樹組の門を潜ると、赤石さんがいて、すぐに部屋に通してくれた。
「それにしても···志乃さんって男前だね。梓君は面食い?」
「え、えー···?そうじゃないと、思うけど···」
「そうなの?顔だけじゃないんだねえ。」
どうやら燈人さんは前の仕事が押しているみたい。少し遅くなるとハル君に連絡が来て、忙しい時に時間をわざわざ空けてくれたことを、申し訳なく思った。
「で、志乃さんは梓くんのこの可愛い顔が好きなの?」
「···別に、顔だけじゃない」
「うわぁー、惚気かよ。若ぁ、二人ともラブラブアピールが凄いんですけどぉ。」
「そうだな。でもそれはいいことだろ。······お前もしかしてまた燈人と喧嘩してんのか?」
「ザッツライ!!」
「よく飽きねえな」
赤石さんとハル君の会話を聞いて、俺も志乃も少し呆れてしまう。俺と志乃が言えることじゃないけどそんなに頻繁に喧嘩して、大変だなって。
「あ、来たかも。」
足音が聞こえてきて、赤石さんが部屋の前に顔を出すと、すぐに廊下から燈人さんが入ってきた。
「悪い、待たせた」
「いい、気にすんな」
ハル君がそう言って、笑う。
目の前に座った燈人さんは、志乃を見て、それから俺を見た。
「で、話ってのは?」
多分本人はそんなつもりは無いんだろうけど、圧力が凄い。顔も、少し強面で殆ど無表情だから。
「そういう無表情貼り付けてる感じが嫌」
「お前に聞いてねえから黙ってろ」
「死ね、くそ燈人」
「······話って何だ」
赤石さんと燈人さんの会話に思わず退きたくなる。そんな時、志乃が口を開いた。
「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」
「···迷惑?」
頭を下げた志乃に少し驚いた表情をした燈人さんと、赤石さん。
「志乃さん?迷惑って何のこと?」
「···俺の力が無いばかりに、梓の世話を···」
「ええ!いやいや、待って!頭上げて!ね?燈人も驚いてないで何とか言いなよバカ」
赤石さんが志乃の肩を叩いて、頭を上げさせる。
「別に···迷惑だとか思ってない。俺達がその···梓に会った時、俺達は喧嘩してて、緩和剤みたいになってくれたしな。それに···俺は俺の理想を押し付けて、梓に余計な事言っちまったし、謝るのはこっちの方だ。」
顔を上げた志乃に、燈人さんはそう言った。
「だから、頭なんて下げなくていい。」
「けど···」
「どうしても負い目を感じてしまうなら、今からこいつを説得してくれ。今日の晩飯は塩鍋にしろって」
「塩鍋じゃないって言ってるじゃん!俺はキムチが食べたい!キムチ鍋!」
志乃が心底嫌そうな顔をする。それは志乃だけじゃなくて、ハル君も、そして俺も。
もしかして、喧嘩の原因はそれなのか?そうでない方がずっと嬉しい。
「なあおい燈人に赤石。喧嘩の原因はそれか?」
ハル君が意を決してそう聞くと、「当たり前だ!」と二人から返事が来て、さすがのハル君も溜息を吐いていた。
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