248 / 292
第248話
***
「夏目さん、もう1人で歩けるようになったんですね!」
時間は経って、夏目さんの怪我は治り、1人で歩けるようになった。リハビリも兼ねて家まで来てくれた夏目さんに、珈琲と、甘いお菓子を出して一緒に話をする。
「はい、でもまだ走ったりとかは厳しいから、仕事も組でパソコンとにらめっこしか出来ないんですけど···」
困ったように笑う夏目さんに、隣に座っていた志乃が「十分助かってる。」と言った。それを聞いて、夏目さんは少し嬉しそうな表情になる。
「それなら、良かったです。」
そう言って、少し照れているのか珈琲を飲んで、視線を下に向ける。
それから思い出したように勢いよく顔を上げた。
「あの、俺···姉ちゃんとお墓参り、行ってきました」
「···そうか。良かった。ちゃんと話せたか?」
夏目さんのその報告が志乃は嬉しかったみたい。柔らかい表情で夏目さんの話を聞いている。
この話は俺が入り込むのはまずいなと思って席を立ち、キッチンに入った。
そこでお菓子をつまみ食いしながら、今日の晩御飯は何しようかなぁと考える。
「···ホワイトシチュー食べたいなぁ」
外は寒いし。丁度いい。
後で志乃に提案してみよう。
シチューにするならおかずは──···
「梓、夏目が帰るぞ」
「えっ!ぁ、うん!」
キッチンに志乃が来て、そういうから慌てて玄関に向かう。
「また来てくださいね!」
「はい。ありがとうございます」
夏目さんとも、色々あったけれど、今はいい人だってわかっているから、また来てって言える。
一時は志乃が夏目さんのものになるかと思って、夏目さんを遠ざけていたけれど、それは間違いだったな、と今更ながらに反省したりして。
夏目さんが帰っていって、志乃と俺と二人きり。さっきの晩御飯の話をしようと思って「ねえ!」とリビングに向かっていた背中に声をかける。
「ん?」
「晩御飯の話なんだけどね」
「···まだ昼飯も食ってねえのにか?」
「ホワイトシチューが食べたい!」
「わかった」
志乃はふっと笑って、近付いた俺の頭を撫でる。それが嬉しくて抱きつけば、抱きしめ返してくれて、俺も志乃も、愛情表現の仕方が成長したな···なんて、あまり意味のわからないことを思った。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!