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第249話

*** 街で噂をされている眞宮志乃は、どうしても怖い存在だ。 志乃に纏わる噂は全て、人を怖がらせるものだから。 けれど、志乃に触れて初めて知った。 本当は不安を抱えていること、甘える術を知らないこと、周りを傷つけないように努力していること、だからこそ自分の感情を隠していること。 「梓、こっち来い」 「うん」 言わなくても伝わるなんて嘘。 言葉にしなきゃ伝わらないことは、この世の中にごまんと存在してる。 言葉にしないから、努力が違う方向に向いてしまったり、空回りしたり。 その事だけを切り取って考えても、生きることって、すごく難しい。 「志乃」 「何だ」 「志乃の膝硬いけど、膝枕して」 「···硬いとか言わなくても良くねえか」 「柔らかくなってぇ」 「無理」 ぐりぐりと志乃の肩に額を押し付ける。そんな俺の顎を掬い、唇にキスを落とした志乃。その目は優しくて、安心する。 「甘えただな、本当」 「志乃も俺くらい甘えたになって良いよ。疲れた時は癒してあげる」 「···なら、今癒して」 志乃に抱きしめられて、ドキッとした。 ほら、こうして言葉にしてくれなきゃ今、癒して欲しかったんだってことも、俺にはわからない。 「好き、志乃」 「俺も愛してる。」 多分、これから先も言葉にできなくて間違えることもあるけれど、本当の志乃を知れたから、きっとすぐに仲直りできる。 誰よりも大切で、誰よりも愛しい人だから。

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