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俺とアキ 2
「ね〜え、あきぃ…お願いだって。俺もうずっと大人しくしてんじゃん。言うことだって全部聞いてるし、ちゃんと寝てご飯も食べて、あとは何したらいいの?もうやだよ、寝るの疲れた。」
「⋯⋯俺だって好きでこんなことしてる訳じゃないから。お前が自分の体調管理くらいちゃんと出来てたらこんな事になってなかったろ?急にぶっ倒れたかと思ったら熱出てるし、ゲームのし過ぎで睡眠不足でした?ご飯もまともに食ってません??⋯⋯なんだそりゃ。今日まで我慢しろ、せめてそのカスカスな声がどうにかなるまでな」
「うぅっ⋯⋯その言葉も耳にタコが出来るくらい聞いたもん⋯⋯」
そう、全部アキの言う通り。
つい最近新発売されたゲームが最高に楽しすぎてついつい止まらなくなってしまったのだ。その結果、睡眠を極限まで削り飯もまともに食わず、学校から帰宅するなり鞄を放り出し即向かうはテレビの前。
そんな日々を過ごしていればいつかは体にガタが来るだろうと予想はしていた。
けどまあ、まだいける。今日もいける。⋯まだ、大丈夫そう。⋯⋯もうちょっと⋯⋯⋯っと自分のことを疎かにしながら続けていた結果、高熱と共にぶっ倒れてしまったのがもう3日も前の出来事だった。
丁度部屋に遊びに来ていたアキの目の前で倒れてしまったもんで、それから看病をしてくれてるのだが⋯
俺がベッドから動き出す度に何度も戻され、ゲーム機類も今は触れない様にと全て何処かに隠されてしまっていた。
はぁ⋯ほんとにつまんない。またダメだってさ。
用が済んだのなら、と腕を引かれ再びあの暗い寝室まで戻されてしまう。「やだー!!」と叫んでも、うるせえと一言で俺の抵抗は虚しく遮られ、気付けばまたベッドの上だ。
眠り過ぎてまた頭痛くなってきたし。
渋々ごろん、と寝転がり無駄に素数なんて数えてみたり⋯⋯って思ったけど、素数ってなんだっけ。なんかよくわかんないや。
「は〜あ!なんかもうイライラしてきちゃった。もうこうなったら俺の看病で疲れ果てて、アキの髪の毛なんてぜ〜んぶどっかに飛んでっちゃえばいいのに。」
思い通りにならない現実に対してやがてふつふつと怒りが込み上げてくる。その発散方法でさえも今は何も無く、思いつく限りのストレス緩和策と言えばアキへの悪口だけしか思い浮かばない。
疲れきったアキのつるつるな頭頂部。そしたら流石にどんだけ綺麗な顔をしてても違和感しかないかもしれな⋯⋯いや、ちょっと待てよ。全然違うかも。
どう足掻いてもアキの綺麗な顔はそのまんまで、寧ろ仏様のように見えてきてしまうかもしれない。
⋯⋯あ〜あ、つまんな。
他には何も無いのか?と、思い浮かぶ限りの不満という名の八つ当たりを静かに心の中でぶちまけてしまう。
人間ってずっと狭い場所に閉じこもってたらこんなくだらない事ばっか考えちゃうようになるのかな。
「はぁあ〜⋯⋯」
これで何回目なんだろうなぁ。気を抜けばまた、俺の口からは盛大なため息ばかりこぼれ落ちていく。
──が、ふとした瞬間にドアの外から聞こえてくる無機質な音に気付いてしまった。しん、と静まり返った部屋の中に居るとどうしてもドアの向こうの世界が気になって、ずっと聞き耳を立ててしまう。
⋯⋯ん、そう言えばアキって今何してんだろ。
そっ、と気付かれない様に身体を起こしてベッドから降りると足音を立てないように慎重にドアの近くまで近付く。
そ〜っと、バレないように⋯⋯。
そのままドアに耳をぺたりと押し付けて、外の様子を伺ってみる。
『 シャ〜──⋯、』
⋯⋯水の音⋯?なんか、シャワーっぽい感じ⋯。
あっ、もしかしてお風呂?そう言えばずっと俺の世話ばっかで自分のこと後回しにしてくれたんだっけ。
ってことは⋯?
「───絶対に今でしょ、こんなの。」
そう気付いたのが早いか、行動が先か。
素早い動作で箪笥からパーカーを引き出してしっかりマフラーもグルグルと首元に巻き付けると深くフードも被って持ち物チェック。
財布、携帯、鍵。これだけあれば何だって出来る。
俺が動けるタイムリミットとしては、アキのお風呂が終わるまで。
大丈夫。バレなきゃいいんだから。
そう自分に言い聞かせながらそーっと部屋のドアを開ける。少しでも音が漏れないように、とにかくこっそり忍び足で。
静かに移動しなきゃいけない手間で少しだけ時間がかかってしまったが、玄関まで着いてしまえば後はもうやる事は決まってる。ささっと靴を履いて素早く外へ。
やっと味わうことの出来た外の空気。めちゃくちゃきもち⋯⋯⋯くない。さっむ?!?!
激寒なんだけど⋯?!違うじゃん!なんで雪とか降ってんの⋯??
⋯とは言っても、今の俺にはそんな事をしてる余裕なんて1ミリたりとも無いんだった。
大丈夫、ぜんっぜん寒くない。こんなのよゆーだし。
ガタガタと震える身体を強引に押さえつけて自分に何度も言い聞かせながら、凍えるような寒さを頭の片隅まで無理やり追い込んでしまう。
そして足早に目指すは近くのコンビニまで。お粥とかなんかよく分かんない味のしないスープとか、そんなんばっかのご飯にも飽き飽きしてたし、好きなものでもぱって買って帰ろ。
あっ!ついでにアキの好きな物でも買ってきてあげようかなぁ〜!俺の世話ばっかで疲れてるだろうし。
「─って違うじゃん。これはお忍び外出プランなんですから!そんな事したらアキにバレちゃうよね。」
ごめんねアキ、今度お詫びにいろんなの沢山買ってきてあげるから。
──って気楽に色んな事を考えてた数分前の俺を今は殴ってでも止めたかった。
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