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俺とアキ 3
「⋯⋯や、っぱ無理だあぁあ〜!!外になんて出るんじゃなかった⋯俺のばかぁ⋯⋯」
あまりの寒さに段々と前に進むスピードはゆっくりと、そしてゆったりと。駆け足なんてしてられないよこんなの⋯!
1歩1歩を進むので精一杯。進む度に雪がべちっ、と俺の顔に張り付き、更に追い討ちをかけるように俺の全身を冷たい風が包み込んでいく。
今の俺の思考の中は後悔だらけでいっぱいだ。
きっとアキはこんな外の状況を見越して、俺にダメだって言ってくれてたんだろうなぁ。
今更気付いたってもう遅すぎるよね
あ〜⋯でも、そう言えば今日は最大寒波だなんてテレビの中のお天気お姉さんが言ってた気がする。今朝の俺は不貞腐れすぎててニュースどころじゃなかったもんな。ずーっと怒ってた気がする。
『後悔先に立たず』って言葉を昔どっかで聞いた事があるような気がするけど、きっとそれは正しく今の俺の状況にぴったりな言葉なんだろうな。
とりあえず先に進む事でしか今の状況を打開できる方法はなく、一旦目的としているコンビニまで辿り着いて暖かい店内にさえ入ってしまえばこのすり減った体力が回復し、寮に戻る分の気力くらいはチャージ出来るだろう。
その可能性に掛けるしかない。
相変わらず吹き荒れる雪と風に負けるものか!と必死に何度も挫けそうな気持ちを奮い起こしながら歩き続けていれば、突然足元に白い何かふわふわとしたものがコツン、と当たったような、そんな気がする。
へ⋯⋯なに⋯?雪の塊でも踏んじゃった⋯⋯?
それにしては柔らかすぎるような、不思議な感覚に疑問を抱き視線を足元に向けて確認してみる。
「にゃぁ」
「にゃ、にゃあ⋯⋯?!って、なに?!」
段々と見慣れた景色が雪で白く染っていく一方で、その白い塊は小さく鳴いた。
想定外の出来事に一瞬理解が出来ず、頭の中も景色と同様に真っ白に染まってしまう。
じっ⋯とその場で固まってしまったまま、その小さな塊を見つめているとばっちり目が⋯⋯合った。
薄い青色の、キラキラと綺麗に輝くつぶらな瞳。
──ねこ⋯⋯か⋯?って、なんでこんなとこに⋯。
俺、今軽く蹴っちゃった気がするんだけど?!
「えっ、大丈夫?痛くなかった?」
慌ててその場にしゃがみこんで小さくまるまったその身体をすくい上げ、どこにも怪我をしてないか確認する。
幸い痛がる姿は何も見られず、ただ大人しく俺にされるがままだった。
「⋯⋯きみさぁ⋯なんでこんな所に居るの?だめだよ。今日はいっちばん寒い日だってテレビでも言ってたじゃん」
「ニャァ」
抱き上げた時に首元でチリンと鳴る鈴の音に気付いていた。きっと飼い猫なんだろうけど、だからこそこんなとこに居ちゃいけないんだけどなぁ。
だってここ、俺たち学校の敷地内ですもん。俺らペット飼えまセン。飼っちゃダメ。そりゃそうだよ。寮生活してんだもん。
寮もあってコンビニもあって、時間内だったら夜でも食堂が活動してる学校なんて便利すぎるよね。
⋯⋯じゃなくて、問題はこの子をどうするか、って事なんだけど⋯。
とりあえず、ずっとそこに居たなら流石に寒かろうと腕の中におさめて小さなその身体を暖めるようにぎゅっと抱きしめてみる。
スリスリ…と甘える様に擦り寄ってくるその子の頭を撫でながら、きょろきょろと周りを確認してみたものの飼い主らしき人物が居る、とか手掛かりは無し。
そりゃそうだよな。こんな日に外を出歩く人なんて俺くらいしか⋯⋯居ないか。
ん〜!どうするのが正解なんだろ。分かんないかも。
こう言う時にアキが居てくれたらな〜⋯なんて甘えた思考がつい出て来てしまうけど、違う違う。
俺は、今、お忍び中なんだってば!
「このまま置いてくのもちょっと⋯可哀想だもんね。一緒にコンビニでもいく?」
取り敢えずこのままでは俺までこの子の一緒にカチコチに凍えてしまい、最悪命の危機にだって⋯⋯
ってそれは大袈裟か。
だとしても!この子の為に、そして俺のためにも暖かい場所が必要だろうと判断し、よいしょと立ち上がれば目的のコンビニまで歩みを進めていく。
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