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俺とアキ 4

俺の懐でごろごろと気持ちよさそうなこの子のお陰で、冷えきっていた俺の体温が徐々に戻ってくるような感じがした。 ぽかぽかとした暖かな感覚に自然と頬が緩み、ほっと息を吐き出す。 天然湯たんぽじゃん⋯生き物ってすごいなぁ。 って言っても、本来であれば寮からコンビニまでの道のりなんてたったの数分程度で辿り着いてしまう。 腕の中の暖かな存在のお陰で復活した体力でずんずんと道を進んでいけば、最初はあんなに遠く感じたコンビニだって、気付けばもう目の前まで迫って来ていた。 寒さですっかり萎えきっていた俺の心も無事持ち直し、辿り着いた目的地。 だった筈が⋯ あ〜⋯忘れてた。ちょっと待って⋯ 猫って一緒に入っちゃ⋯だめ、だよねえ。 そりゃそうだ。 でも、こんな寒い真冬の店外にこのまま一匹で置いて行ってしまうのも気が引ける。 それにまた俺の知らないところまでフラって消えちゃって、凍えてしまう猫の姿を想像するだけで俺の心の中は罪悪感でいっぱいになってしまう。 かと言って一緒に入る事も出来ない完全に手詰まりのこの状況。 困ったなぁ⋯ コンビニのドアの前で、う〜んと首を捻りながら全然働いてくれない頭で一生懸命解決策を探してみる。 ああでもないこうでもない。堂々巡りの思考回路ではどうしても答えに辿り着かない。 どうしたものか⋯⋯。 途方もない現状に困り果てた結果、一旦この子の情報だけでもちゃんと知るべきだともう一度顔の前まで子猫を抱き上げて、その首元についている首輪を詳しくチェックしてみる。 白い体に赤い首輪。そしてその首輪には小さな鈴が付いていて、途中の金属部分に⋯ ─あっ!なにか小さな文字が刻まれている。 ⋯⋯う〜ん⋯なんかよく見えない、かも。 こうしたら見える?ん?こっちか?と、色んな角度から子猫の首元を覗き込んで居れば、突然目の前の自動扉が『 ウィーン』と、音を立てて開いてしまう。 その瞬間に店内の暖かな空気がブワッ!と俺の全身を包み込み、はっ!と顔を上げる。 俺に反応した?⋯っあったけえ〜⋯ 早く中に入りたい⋯けど、そもそも入口の目の前だなんて邪魔な場所で通せんぼしちゃってたかもしれない。 もう一度猫を抱え直して場所を移動しようと一歩踏み出したその矢先、俺の視界の端に映る黒い何かの影。 「んっ⋯⋯?」 なんだろう、と開いたままのドアに視線を向けてみれば、コンビニの店員さんが驚いた表情でそこに1人立ち尽くしていた。 「っあー!!!ちょっとユキー!!!おまえ何処に行ってたんだよ?!探してたんだぞ!!」 突然周りに響き渡る大きな店員さんの声。その声にびくり!と驚き、身体を震わせながら改めて店員さんに視線を向けてみれば、声に反応した猫が俺の中でバタバタと暴れ出して腕の中からすり抜けてしまう。 「わっ⋯?!あ、な、なに??その子の知り合い?デスカ?」 「あ〜⋯⋯ごめんなさい急に大きな声出しちゃって。知り合いっていうか、俺の猫⋯⋯なんですその子。」 「そ、うだったんだ。びっくり⋯した。⋯⋯でもなんでこんなとこに⋯⋯」 「いや〜マジですみません。こいつ気付いたら脱走ばっかするから気を付けてたんすけど、今日もまた俺の後を追いかけてここまで来ちゃったみたいで⋯。すぐ見つけて裏の方で飯食わせながら箱の中で待ってた貰ってたつもりなんすけど⋯⋯」 「はぁ〜⋯なるほど。⋯ユキちゃんね。首輪の文字ってそれかぁ。⋯⋯とりあえず見つけて貰えたようで良かった。」 「マジで感謝しかねえっす。⋯⋯まったくもう⋯人に心配ばっか掛けさせてこいつ⋯。ほら!ちゃんとお兄さんにありがとうってお礼して。」 「ニャァ」 「どういたしまして。これからはもう勝手に外出ちゃ駄目だからな。」 店員さんの腕の中におさまり、ごろごろと満足そうに喉を鳴らすその子の喉元を軽く撫でてみる。指先から伝わる心地よい振動に瞳を細めながらその感触をしばらく楽しんだ後、ぱっと手を離して「ばいばい」と手を振って別れの挨拶をする。 人懐っこい子で良かったなぁ。 ふと、あの子猫と俺の今の状況がぼんやりと重なってしまう。 ──俺も早く戻んなきゃ、アキが心配しちゃうから。 すみません、と何度もペコペコと俺に頭を下げてユキちゃんと一緒に店の奥へと去っていく店員さんにも軽くヒラヒラと手を振ってその後ろ姿を見送れば、俺も続けて店内に足を進めていく。 わぁ〜⋯すっごいあったけえや⋯生き返る⋯⋯

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