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俺とアキ 6
『出るの遅せえよ。今何処にいんの』
「あっ、ん〜っ⋯⋯うん?」
『だ、か、ら、何処に居るのかって聞いてんだけど』
─めちゃくちゃ怒ってる。
電話越しでも分かるアキのピリピリとした声色に、ぷるぷると震える俺の手。
それでも変に誤魔化せばバレちゃいそうで、素直に部屋から出てしまった経緯を答えていく。
「外の方にね、ちょっとぉ⋯⋯その⋯お腹が空いちゃったから⋯食べ物とか色々買ってこようかな〜ってえ⋯⋯おもい、マシテ」
『腹減ったら俺に教えろって言わなかったか?それに、冷蔵庫の中に何も無かった訳じゃねえだろ。』
「⋯⋯えぇ〜?だってさぁ⋯⋯朝も冷蔵庫の中覗いてみたけど、どこ見ても緑色の葉っぱばっかで大草原なんだもん。俺、熱は下がったけどまだ柔らかいものしか食べれないし、葉っぱ噛む元気は無いって言うか⋯しょっぱいものとか甘いものとかも食べたかった、っていうか⋯⋯」
『そんなに弱ってる奴がクソ寒い中を元気にトコトコ歩いて、買い物まで出来るんだな。おもろいじゃん。珍百景にでも投稿してやろうか?』
「冗談でもそれだけはやめてよ⋯恥ずかしいし⋯⋯。それに、なんか飲み物切らしてた気がしたからついでに買ってきてあげようかな〜⋯って」
「へえ?⋯⋯なんだ、お前めっちゃ気が利くじゃん。わざわざ俺に何も伝えないで買ってきてくれてんの?すっげえな。もしかしてサプライズとかそんな感じだった?」
「あ〜⋯⋯んまぁそういうとこ。だからさ、ちょっとまっててよ。もう着くし、なんも心配は要らないから」
『⋯⋯⋯⋯そうか。』
あれ、何だこの変な感じ。
最初の方こそピリついた会話で少しずつアキの機嫌を伺いながら会話をしてた筈が途中からその雰囲気が和らいだと言うか、段々アキのトーンが落ち着いていった、って言うか。
スムーズに一区切りついてしまった会話に違和感を覚える。
──でもまあ、いっか。
なんかいつもよりノリ良いし、ぜんぜん怒ってなかったみたい。俺の勘違いだったのか?
なんだよ、結局優しいじゃんアキって。
何も無く済むならそれに越した事は無いし、アキの気が変わる前にこの電話を1秒でも早く、さっさと終わらせてしまいたい。
もう帰るからね〜なんて呑気な言葉で通話を終えようと画面に指を伸ばしかけたその時、『それでさ、』と不覚にも画面越しから聞こえてくる続きを含ませたアキの言葉。
⋯⋯まあまあ、また適当に誤魔化して終わっちゃえば大丈夫っしょ。
平然を装いながら、離してしまった携帯を再びピタリと耳に当ててその言葉の続きを静かに待ってみる。
『あ〜⋯⋯お前がそんな感じなら、まあ⋯そうだな。多く見積って後3日、って事でも良いか?』
「ん?何の話?」
『あぁ、悪い。言葉不足だったみてえだな。まだ飯食う元気が戻らないみたいだし、引き続き体調不良って事でまた学校に連絡入れねえとなって思って。外から帰って来た時にまた熱が上がってたら元も子もねえからさ、さっさと帰って来いよ。』
「⋯⋯えっ、ちょっと待ってよアキ。別に俺が休む分には全然良いけど、わざわざ俺に付き合ってアキまで休むつもりじゃないよね?」
『ん?あ〜、別に俺の事は気にしなくても良いから。お前のこと1人にしてまたぶっ倒れたら困るし、傍に誰か居てやんねえと飯作んのも大変なんだろ?』
な〜んか、おかしい方向に話がいっちゃってない?!
⋯⋯もしかしてまた俺の事をあの暗い部屋に閉じ込めて何もさせない訳じゃないよね?!
淡々と勝手に進められてく看病計画。もういっぱいいっぱいだと息抜きを求めてやっと抜け出す事が出来たのに、あの地獄にまた俺を送り出す気?!
慌ててアキの名を呼んで、なんとか説得を始める。今すぐにでもどうにかしなきゃいけないこの状況に心臓はバクバクと震え、今にでも爆発してしまいそうだ。
「ね、ねえアキ!ほんとに大丈夫だから!俺もう熱だって下がったし『その言葉はさっきも聞いた』
「ん〜っと⋯⋯じゃ、じゃあもうご飯だって平気だよ!1人でなんとかできそうだか『出来ねえんだろ?だから出来合いのもの欲しくて外まで買いに行ってんじゃねえのか?』
「あ〜っ⋯あ〜!!みんなアキに会えなくて寂しい思いしてるかもしんない『んな話今まで聞いた事ないわ。お前位じゃないのか、?俺が休んだ時に寂しがる奴って』
まあ確かにそれはそうかもしれない。
っじゃなくて!!ぜんっぜん俺の話聞いてくれないじゃん!!
どんなに大丈夫だとアピールをしようとも、ちゃんと正当な理由で簡単に言いくるめられてしまう。段々とそのアピールも虚しく、苦し紛れの理由探しみたいになっちゃった。
これのどこが怒ってなさそうだし大丈夫。の、分類に入るのでしょうか、数分前の俺よ。
結構付き合いは長い筈なのに全然気付けなかった。
──いや、と言うか⋯何だかんだ口うるさく言われる言葉は多いけど、本気で怒ったアキをあんまり見たことがないからどの辺りから身を引かないといけなかったのか、俺もまだうまくその雰囲気を掴むことが出来てなかった。
でも今回の件でちゃんと理解出来ました。
アキは怒ったら感情を爆発させるタイプじゃなくて、静かに怒る感じね。
うんうん。分かった。
めっちゃ怖いやつだ。
だから、これはかんっぜんに怒ってます。やっぱ鬼の方でした。立派な角を育成中です。
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