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俺とアキ 7
こうなってしまえば、もう意地の張り合いは完全におしまいだ。素直に謝って、許してもらうしかない。
⋯⋯そうでなくてもちゃんと素直に謝る事の方が先だったかと反省する。
「もおアキっ⋯⋯!!⋯俺が悪かったから。ほんっとうに、ごめんなさい。すぐ帰るから、いま、もうほんとに帰ってる途中だから」
『⋯⋯なんで謝ってんの?別に悪い事してる訳じゃねえんだろ』
「ちがっ⋯!だから、あの⋯そういう事じゃなく、っ⋯、ぁ⋯⋯ちょっ!!と待っ゛ぶえっくしゅん!!!」
『っ⋯、⋯⋯汚ねえな。⋯お前さ、⋯⋯⋯っはぁ〜⋯もう良いから。さっさと帰って来い』
「⋯⋯わかってる。帰んないといけない事はちゃんと分かってるけどさぁ、帰ったらまた部屋の中に戻んないといけないし⋯アキに絶対怒られるし⋯⋯なんか嫌なんだよね。⋯あ〜っ⋯!ちょっと待って⋯うわ、最悪。鼻水ダラダラなんだけど」
今帰るから、とその場しのぎで何度も伝えては居たものの実際はその場から1ミリも進んでない所か、正直帰ることに対して気持ちが完全に塞がってしまっていた。
どのくらいの間、この寒空の下で立ち話をしてたのだろうか。アキの対応に夢中で全く気付いて無かったけど完全に身体は芯の奥の方まで冷えきっていて、鼻水がもう⋯止まんない。
くしゃみだって同じように止まん無さすぎて、電話越しのアキの声を全てかき消してしまっている。
「⋯⋯っごめん、何??」
『だから、お前はいつまでそうしてるつもりだっ「ッハクシュン!!」』
「あ〜⋯⋯もう大丈夫そう。それで?」
『帰って来い、って言ってん「っぶあっくしょん!!」』
っあ゛〜!!きち〜!!
段々会話にならなくなってきた。
だけど、何を伝えたいのかはちゃんと分かってる。
帰りたくない俺と、早く帰って来いと電話越しに訴えかけてくるアキの意地の張り合いがまた始まってしまいそうだった。
ほんとは俺だって早く帰りたい。寒いし、こんなとこにずっと居なきゃいけない事の方が正直しんどい。
⋯⋯冷えきってるはずの身体が、またなんか熱くなってきちゃった感じだってする。
う〜ん⋯と働かない頭をなんとか回転させて色んな思考を巡らせていたが、電話越しから、これまた深い溜息が聞こえてくる。
⋯⋯少しだけ、ダメ元だけど交渉してみよっかな
「⋯⋯ねえアキ、聞いて。俺がさ、帰って来た時にぜ〜ったい怒らないって約束してくれるなら今すぐ戻ってあげても良いけど。⋯⋯どうする?」
『⋯なんか立場逆になってんなぁ?なんで開き直ってんのお前は。⋯⋯まあいいけど。で、帰ってきても怒らない、だっけ?その件に関してはもう怒ってねえから。別に。』
「ほんと⋯?じゃあ、約束守ってくれる?」
『だから良いって言ってんだろ。⋯⋯でも、まあ⋯そっちがそんな感じなら俺にだって条件を出す権利はちゃんと有るんだろうな。』
「⋯⋯わかった。⋯早く俺を家に帰さないとさ、また熱が上がっちゃってこの場で倒れちゃうかもしれないしね。」
電話越しでもわかるアキのトーン的に、さっきまでのピリピリとした雰囲気はもう完全に無くなってる事を悟る。
今回ばかりは、ほんとに怒ってなさそう。絶対に。⋯⋯そう、かもしれない、一応。
まあ、何だかんだ優しいアキの事だし条件って言ってもそんなに難しい事じゃなくて、『早めに帰ってくること』とか、帰ることに対してうだうだしてる俺の事を素直に部屋まで帰ってこれるように仕向けるための条件でも考えてくれるのだろう。
まだ病み上がりで、鼻水もくしゃみもいっぱい出ちゃうこんなに可哀想な俺の事を、アキは絶対に放っておけないんだから。
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