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俺とアキ 10

「他には?痛いとこまだあんの?」 「ん〜⋯多分無い。⋯だいじょ〜ぶ⋯⋯だと思う」 結局、足もちゃんと全部見せろ。と、ズボンまで脱がされてしまえば何だかんだ気恥ずかしく、アキの中で俺はどこまで大袈裟な怪我ばっかしてる人間だと思われてんだって、なんだか情けなくなってしまった。 最終確認として聞かれた言葉に緩く首を振って、もう平気だから。と、答える。ここまでぜ〜んぶチェックされたんならもう何も無いに決まってんじゃん。 俺の言葉を聞いて少し考える素振りを見せた後に、「まあ良いだろう。」と改めて許可が下りる。 ほんとうに信用無いなぁ! 「お前さぁ、もう少し気を付けろよ。そのうち派手な怪我でもしたらタダじゃ済まねえぞ」 「分かってるよぉ。でもさ〜!!」 「あ゛??他に何か言いたい事でもあんのか?」 「⋯なにもない、デス」 そう言えば、そうだった。 一応俺はアキを怒らせてた途中で、反省してなきゃいけない立場なんだよね。 バタン!!と力任せに閉じられた救急箱の蓋の音と、威圧的なアキの言葉。ギリッと鋭い視線で睨み付けられてしまえば全身がピシャリと固まり、まるで蛇に睨まれた蛙のようなそんな気持ちになってしまう。 こっわぁ⋯⋯大人しくしてなきゃ⋯。 用の済んだ救急箱手に立ち上がったアキの後ろ姿を確認しながら、俺もそっと立ち上がりのそのそと脱いだズボンを履き直す。 ふと、目の前に視線を向けてみれば再び戻って来るアキと目が合う。その視線が、俺にもう一度座れ。と示していた。 ──⋯わかってるよ。 大人しくそのまま腰を降ろせば、俺の目の前にやってきたアキの視線から逃れるように、視線を俺の足元に落とす。 「で、お前は俺に何か言う事があるんじゃねえの?」 始まった。 言わなきゃいけないこと、伝えなきゃいけないことは沢山あるけど、なかなかスムーズに言葉として俺の口から出てこない。 しどろもどろになりながらも言葉に悩んでいれば、「ちゃんと目を見て話せ」 と、条件が足されていく。 おずおずと顔を上げてアキの目をしっかりと見つめながら、ぼそぼそと呟くように言葉を吐き出していく。 「あ〜のぉ⋯えっと、そうだよね。消毒とか⋯怪我の確認を、してくれてありがとう⋯⋯?」 「それだけじゃねえだろ。」 「⋯⋯勝手に外に出て、ごめんなさい。」 「それで?」 「アキのこと、心配させてごめんなさい⋯」 「で?」 「もうしない、から⋯⋯ね。⋯ね?」 「他には?」 「んっ⋯⋯?あ〜⋯電話もすぐに出なか、った⋯から⋯あの、ごめん⋯なさい⋯」 「⋯⋯後は?」 なかなか終わらない質問攻め。振り絞るように謝罪の言葉を続けていくが、そもそも常に脳内空っぽのような俺の頭の中は一つ一つを考えることに精一杯で、うまく繋げる事が出来ない。 「あと、は⋯⋯あの、その〜⋯⋯っ⋯⋯」 「後は?」 再び、強要されるように繰り返される言葉。 他に、何が悪かった⋯?わるいこと⋯いや、何もかも全部が悪いって事は理解してるけど、⋯⋯えっと、⋯⋯。 何も出てこない。それでも何かは伝えなきゃいけない。アキが、俺の言葉を待ってるから。 「⋯⋯っあき?ちゃんと反省してる、から⋯だから、あの⋯」 「何」 「おれの事⋯嫌いにならない、で⋯⋯」 静かに、ただ淡々と過ぎてくギスギスとした気まずい空間。 一つ一つの問い掛けに対して適切な返事を返さなければ更に怒られてしまう、そんな気がして一生懸命頭を働かせながら言葉を手繰り寄せ、選んでいく。 謝罪の言葉を口にする度に心の中がドロドロと罪悪感に蝕まれていく。 軽率に外になんて出るもんじゃなかったな、とか、アキに隠し事なんて⋯そもそもうまく出来た試しが無かった。お前はすぐ顔に出るから、と全部ばれてしまう。 あれもこれも、全ては俺が考えもなしに勢い任せでやってしまった出来事。よく考えて行動しろ、って普段から言われてるのに、理解はしてるはずなのに、頭で考えるよりも先に感情がどうしても先走ってしまう。 だからこうやっていっつもアキに迷惑かけてばっか。 ───それでアキが俺から離れてしまう事が、⋯⋯⋯。 怖いのに、なぁ。 気を抜けば、今にでも泣き出してしまいそうだった。 ぎゅっと唇を噛み締めて俯いていれば、俺の事を見下ろす様に目の前で立ち続けていたアキが不意に漏らしたため息。 「⋯間に合ったら怒らないって約束だったっけか。」 「あっ⋯⋯べつにもう、そんなの大丈夫だから⋯。アキが怒りたかったら怒っても⋯⋯いい、し⋯」 「何、お前わざわざ俺に怒られたいの?何時間もこうやって説教しなきゃいけないってか?」 「ちょっ⋯!!それ、は⋯⋯でも、う〜んっ⋯⋯」 「⋯⋯俺だってずっと喋んなきゃいけねえのはダルいからパスで。⋯ちゃんと考えて行動しろよ、このバカ」 「っいでっ!!⋯ハイ⋯⋯」 ほら、また言われた。考えて行動、できてないもんね。 俺との約束を律儀に守ってくれる、らしい。と言うか、ダルいってのはちゃんとした本音なんだろうけど、それはそうとして、結局はアキの優しさで話に区切りを付けてくれた。 最後に、怪我をしていない方の額をぺしっと指先で弾いて俺から離れていくアキ。 はぁ〜⋯やっぱアキには敵わないや⋯ アキに許された事で無意識の内に入ってた全身の力を抜いて、ソファーの背もたれに身体を委ねながら全身を埋めていく。 そのままズルズルと力を抜いていけば、やがて身体が下に下にとずり下がりだらだらと床に落ちてしまう。 「⋯何してんの」 「何もしてないからこうなっちゃったんだけど⋯⋯たすけて」 「⋯⋯そんくらい自分で動けって」 「⋯っよいしょ⋯⋯ありがと」 俺の僅かな身体のエネルギーを全部使い切ってやっとこさ帰宅した今、何をする気にもならない。と言うか、身体に力が入らない。 ぐで〜っとそのまま床に倒れていれば、呆れ顔で俺の様子を見に来てくれたアキの手を借りて身体を起こす。 そのままソファーによじ登ってごろんと横になれば、再び俺の元から去ってったアキの後ろ姿をぼやりと見つめながら、その視線をそっと天井に移す。 もうこれで、俺の今日の分の体力はすっからかんになってしまった。ライフぜろ。動けない。終わった。 「⋯⋯そこで大人しくしてろよ」 「⋯っ?!ぶわぁっ!!⋯⋯あっ⋯⋯はぁい」 ソファーでごろんと寝転がって居ると、急に俺の視界は真っ黒のふわふわとした物体に侵略されてしまった。投げ捨てられるかのように飛んできたそれは俺の顔にばさっと降り掛かり、視界を覆ってしまう。 なんこれ⋯、布団⋯⋯? ⋯あ〜、わざわざ取りに行ってくれてたんだ。⋯⋯ほんとにどこまでも優しいんだから⋯あきって。 大人しくしろ、と言われるがまま素直に返事を返せば受け取ったその布団を俺の身体に掛け直して、改めてぬくぬくと暖を取る。あったけ〜⋯⋯冷えきっていた俺の身体にぽかぽかと体温が戻ってく感覚。 はぁ⋯⋯これが幸せ、ってやつかぁ⋯⋯

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