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俺とアキ 11

「⋯⋯ほんとに全部食えるんだろうな、コレ」 「⋯アキの分も入ってるから、好きなやつ取りなよ。ティラミスにレーズンのバウムクーヘンだっけ⋯?そんな感じのやつ。あと、抹茶のやつも入れた。⋯とかさ、おにぎりも梅に昆布と⋯⋯あと何買ったっけ⋯覚えてないや。飲み物もちゃんと買って来てるから、それもど〜ぞ」 「な〜んか、お前らしくないもんが色々入ってんなって思ったわ。⋯⋯で、どれよ。その選んでくれたものって」 「だから、その俺らしくないやつ全部。見慣れてるものとか色々有るっしょ?俺は残ったやつ貰うから、適当に置いといて。」 「⋯⋯残ったやつ、ってもお前これ⋯。なんかおかしくねえか?」 「えぇ?⋯⋯ちゃんと選んだけどなぁ。なに⋯?どんな感じになってるの?」 自分の空腹を満たす為に、その思考で商品を選んでいた、ハズ。最初はそんな感じでカゴに入れてたつもりだったけど、途中からアキの好物を見つけてしまいそっからあれもこれもと選ぶ手が止まんなかった自覚もある。 それがどの程度だったかは正直覚えてない。 記憶してる範囲で商品名を伝えてそれはアキの分だからと主張してみれば、途中で不自然な形で言葉に詰まるアキの雰囲気を感じ取る。 そんなに変な買い物してたかなぁ⋯⋯ とは言っても、俺はこの場から指先ひとつでさえも動かせる元気が無いので、「おねがい!持ってきて!」と、アキに頼めば自分の目で確認してみる事にする。 そして、ガサッ、と目の前の床に置かれるコンビニ袋。 少し寝てる体勢を変えて身体を横にすると、「うんしょ」と布団の中に納めていた腕を伸ばして袋を手繰り寄せ、中身を覗き込んでみる。 「これはアキのでしょ、これも。⋯⋯あ〜、これはね、一緒に食べようかなって思ってて、それも〜アキの好きなやつ!俺は食えない!ん〜⋯あっ!あるじゃん俺の。それとそれ。これも美味しいんだよねぇ。⋯⋯あとは〜⋯後、は⋯⋯ん、あれ。」 思ってたよりも、自分の為に買い込んでたものは少なかった。半分はアキの為に、残りの半分は2人で一緒に食べたいヤツとか保存用の飲料水。⋯⋯全部確認してみたけど、自分の分だと確信出来たものは2割程度しか入ってなかった。 そりゃどれが自分の分なのか迷うよな。 それでも謎にパンパンな袋を見る限り、自分のための買い物と言うよりはアキへの貢物みたいなそんな感じになっていた。 「この中からお前が食えそうなヤツ足してけば良いじゃん。俺一人で、ってもこの量はさすがに無理だろ」 「えぇ〜?アキの為に買ってきたのにぃ?俺、苦手なもの多いし手伝えないよ。少しずつ分けて食べたらいけるでしょ?」 「⋯⋯自分も食えそうなヤツ選んで買えばよかったのに。わざわざ俺中心で考える必要ねえだろ」 「でも、アキはこれが好きなんでしょ?俺が好きとか嫌いとか、そういうのは別にどうでも良いかなって。アキが喜んでくれるならそっちのが俺は嬉しいし」 「⋯⋯でも、俺に対しての機嫌取りなんだろ?」 「⋯はぁ?俺ってそんな風に見えてるの?一々そんなのやらないよ。めんどくさいし」 ただ純粋にアキの好きなものを買って、喜ぶ顔が見たかっただけ。 その好意がちゃんと伝わってなかったのかと不貞腐れた表情でアキに怒った表情を向けるが、まあ、状況的にそう捉えられる方が普通ってかそりゃそうだよな。 すると、急にアキの反応が無くなってしまう。なんと言うか、少し⋯⋯バツの悪そうな、そんな感じの顔をしてる。 何事だと様子を確認すべくその表情を見つめていたが、やがてアキの口が小さく開いて言葉を並べていく。 「⋯⋯⋯お前は嫌じゃなかったのか?⋯⋯わざわざ俺の為にって選んで買って来てくれてんのにさ、帰る事を急かされて、んで帰ってきても何も知らない俺に怒られてんじゃん。適当に誤魔化しときゃ言い逃れ出来たろ」 「ん〜?怒られるのは全然嫌だけど、別に俺が全部勝手にやった事だしアキが怒るのも当然でしょ。約束破ってんだから。⋯⋯それに、言い訳とか俺そういうのうまく出来ないから無理。アキが一番分かってるハズだけどね」 俺がした事は当然怒られるべきで、アキのために買ってきたものでどうにか許して欲しいとかそんな感情は一切無かった。実際に買い物中の俺は、怒られちゃう!とか、急がなきゃ!とか、そんな事をすっかり忘れて買い物を素直に楽しんでたもんな。 でも、アキの中で想像していた事と俺の本来の目的が噛み合わなかった事に違和感を覚え、その感覚から少しでも罪悪感が生まれてしまうのであれば、それはまた違う話。アキが抱くべき感情では無い。 今はどんな顔をしてるんだろ。 ちらり、とアキの表情に視線を向けてみれば案の定、複雑そうに何かを考えてるような難しい顔をしている。 俺の勝手な優しさを押し付けられて、それに気付くことが出来なかった所か勝手にそれを偽善だと思い込んじゃった事が悔しい、とか⋯申し訳ない、とか、そんな感じ? アキが全部正しいのに、ね。そんな事にも気付けなくなってんじゃん。⋯⋯ほんとに、どこまでも優しいんだから。 ⋯⋯でもそんな顔をしてるアキの事はあんまり好きじゃない。 「⋯⋯あき、ちょっとここに来て。」 「⋯何?」 「ん、寝てばっかで全然アキに触れてなかったから。少しだけ充電」 「⋯⋯んだよそれ」 俺の言葉に反応し、のそのそと目の前まで来てくれたアキの姿を確認すると、少しだけ身体を起こしてぎゅっとアキの身体を抱き締める。久しぶりに感じるアキの温もりや匂いに包まれるこの感覚が、とっても心地良い。 「⋯⋯また少し熱上がってんじゃねえの?なんか熱い気がするけど」 ぴたり、と俺の額に伸ばされるアキの指先。前髪を掬うように掻き上げられて、そして額の温度を確認するように掌全体が押し当てられる。 「ん、ほんと?⋯⋯そしたらさ、またアキが俺の事観てくれるんでしょ?」 「⋯もう懲りたんじゃねえのかよ。」 ──そうだった。俺は缶詰状態の不自由な介護が嫌で、部屋から飛び出した⋯⋯んだっけか。 危ない危ない、ちゃんと覚えとかなきゃ。 「もう良いだろ。冷凍もんとか冷蔵庫にしまわなきゃいけないし、先に袋の中片付けねえと」 「今食べたいものだけ残してさ、一緒に食べようよ」 アキに促されるがまま素直に腕をパッ!と離せば、折角買ってきたばっかだしと一緒におやつタイムを提案する。 袋の中をがさごそと漁るアキの姿をぼんやりと眺めながら、「お前はどれにすんの?」と聞かれた言葉に対して、う〜んと改めて買ってきたものを思い返してみる。 その中で、ふと思い出した『シュークリーム』の存在。 コンビニの人気限定スイーツで、普段はなかなか買う事の出来ないそれを偶然にも見つけてしまったのだ。 今日は特に雪とか風で荒れてる中、外出しようだなんて思う人間が俺くらいしか居なかったのかもしれない。だからこそ巡り会えた機会だったけど、俺だって外の状況を知ってたら絶対に出ることは無かった。絶対に 「⋯⋯あき、そのシュークリームさ」 「あ〜、これは無理。好きなもん選んで良いって言ってたろ」 「それは一緒に半分こして食べようかなぁって思って買ったやつだし⋯1個しか、無かったんだよ。」 「お前運良かったんだな。マジでありがてえわ」 「だから、一緒に」 「それは無理だって言ってんだろ。」 「⋯⋯なにぃ〜?!⋯⋯ちょっと⋯アキ。今すぐに話し合いが必要かも」 「前、勝手に食ったろ。お前一人で」 ──ギクッ。 それには心当たりがありすぎる。バレてないと思ってたのに⋯⋯。

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