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俺とアキ 12

「ねえアキおねがい!!俺さ、それが食べたくてずっと狙ってたのに全然無いしさぁ⋯やっと、ほんとにやっっと!見つけたんだよ。その喜びをアキと一緒に味わいたかったんだけど⋯だめ?」 「そういや前のヤツもどんくらいぶりだっけな。多分2週間とか、3週間だっけか?1ヶ月位見つけんのに時間掛かって、お前と一緒に分けて食おうかなって取って置いてたら無くなってんだよ、いつの間にか。信じらんねえよな。」 「⋯⋯⋯っ⋯俺、じゃないかもしれない⋯⋯じゃん」 「確かに聞いたよな、あの時に『食ったのか?』って。そしたらお前はずっと知らない、とか、見てない。とか。絶対に違うって言うから信じてやったんだけど、ゴミ箱に落ちてんだよ袋が。目に入っちゃったんだよな。⋯⋯どういう事か、分かるか?」 「⋯⋯⋯ごめん。⋯⋯⋯もうあんな勝手な事しないから。⋯そうだ!今日仲直りしようよ、その時の!ね、そして、一緒にまた仲良く食べよ?俺ちゃんと反省した。俺のためにって残してくれてたんだよね。」 本当は知ってた。 俺のために残してくれてる物だと知りながらも、理性がストップ!と、俺の事を止めてくれなかった。 だからこそ余計に正直に全てを話すことが出来ず、今に至る、ってわけ⋯⋯か。食い意地張りすぎだよな、過去の俺。 先に袋の中のものを片付ける為に立ち上がってキッチンまで向かって行くアキの後ろ姿に何度も「ごめん!」と謝りながら、過去の過ちについて、しっかりと謝罪を伝える。 じゃないとやっと手に入れたシュークリームと再びいつ会えるか分からない。また長期間のお別れをしないといけないかもしれないから。その為なら、ちゃんと俺が悪かった、って認める! 買い物はアキの為に頑張ったけど、シュークリームに関しては全面的に私利私欲だ。その為なら素直に謝ることだって出来る。 「仲直り、ねえ。それってさ、一緒に食えば成立するって事なの?」 「⋯そう、俺たちさっきからギスギスしてばっかだからもう終わりにしよ、そう言うの。好きな物食べる時位はニコニコしながら食べた方が絶対に美味しいよ」 「ふ〜ん?⋯⋯⋯別に良いけど。ちゃんと悪かった、って反省してんだろうな」 「してるしてる!!もう絶対にやんない!勝手にアキのものなんて食べないから!」 ──多分。 自分の理性は自分が一番制御できない事だなんて、俺が1番知っている。特に食欲に関しては。 でも出来る限りの対処はする。我慢する。頑張る。 そう心の中で決意して、アキにもちゃんと誠意をみせる。 俺の言葉を聞いて納得してくれたのか、シュークリームの袋を手に俺の元まで近付いてきたアキに、「もうちょい奥に寄れ」と促されるがまま、ソファーの背もたれ側の方にちょいちょいと寝転がったまま身体を寄せてアキが座れるスペースを作る。 「⋯寝たまま食うつもりの奴居ない?」 「だって起きるの辛いんだもん⋯⋯手動かすので精一杯」 「絶対下に落とさない様に食えよ。掃除すんのはどうせ俺だろ」 「⋯⋯わかってます」 俺の腹部辺りの空いたスペースにドカッ、とアキが座った衝撃でソファーが弾み、その弾みでふわりと身体が一瞬、少しだけ浮き上がる。 どうせなら食べさせてもらおうと怠惰な思考が生まれてしまえば、シュークリームの袋を開封して俺の分と1口サイズに割られたそれが差し出されても受け取る事はせず、口を開けたまま待機する。 「喉に詰まっても知らねえからな」 「平気だよ。こういうのよくやるし。」 「お前普段どんな生活してんの?」 めんどくさい時とか、寝たままご飯食ったり水飲んだり、良くあることだから別に気に留めた事もなかった。 流石に呆れた顔で俺の事を見てくるアキの視線に気付かないフリをして、俺の思惑通り口の中までゆっくりと慎重に運んでくれたシュークリームの破片をぱくっ、と受け取り、もぐもぐと咀嚼する。 っ、うまぁ〜!!美味しすぎる!やっぱこれだよね! ───って、ん⋯⋯?おかしいな。全然次の一口がやって来ない。 「⋯⋯⋯あれ、アキ俺もう大丈夫だよ。飲み込んだから次もいけるよ」 「一緒に食ってやったじゃん。それで成立するんだろ仲直りってやつは」 「え?⋯⋯だから半分ずつ、一緒にって⋯」 「別に半分とは言ってなかったよな?ちゃんと味わえば良かったのに。勿体ねえな。」 ⋯⋯どういう事?全然許されてないじゃん!! すん、と素知らぬ顔でシュークリームに齧り付いているアキの横顔に気付けば、その腕を掴んで慌てて静止する。 が、すぐに「離せ」と剥がされてしまう俺の手。そして、その間にもアキの口に運ばれてく度にシュークリームは確実に形を変えていく。 あの時の俺、ほんとにばかやろうだな⋯! もうこうなったら確実にアキは俺の話を聞いてくれないだろう。なんてったって、食べ物の恨みは一番怖いからな。 はぁああ〜⋯と、止まらない溜息を吐き出しながら、両手で自分の顔を覆って視界からシュークリームを消してしまう。 そうする事で多少気は逸れるはず!と、静かにアキが食べ終わるのを待つ事にする。 ──食べたかったなぁ。ずるい⋯⋯⋯。俺が言えた立場じゃないけど。 不意に掴まれた俺の片腕が顔から引き剥がされ、代わりに俺の目の前には眉を寄せてまだ少し怒ったアキの表情が映る。 「⋯っあ、え⋯⋯なに?どうしたの⋯⋯?」 「次は絶対に無いからな。ちゃんと覚えとけよ」 改めて告げられた忠告と共に、丁寧に半分に割ってくれてるシュークリームが目の前に差し出される。 うそ⋯でしょ。ちゃんと残してくれてんだ。 「⋯⋯っ、⋯やっぱアキの事が一番大好きだよ、俺」 「良いからさっさと食え」 俺の傍に座るアキの腰に腕を回してぎゅっと抱き着けば、早くしろとぐいっと押し付けられるように渡されたシュークリームを受け取って、一口齧り付く。 本日二回目の幸せタイム、ですなぁ

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