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俺とアキ 13

「お前のその風邪が治ったらさ、教えて欲しい事が有るんだけど」 「ん⋯?俺の風邪が治るまで待たないと出来ない事なの?今でも全然大丈夫だけど」 シュークリームを口に頬張りながら、突然の問い掛けに緩く首を傾げる。⋯⋯別にアキからのお願い事ならいつだって聞いてあげるのに。 「まともに動けねえやつが何言ってんの。⋯お前がさ、ぶっ倒れるまでやってたゲームあんじゃん。⋯俺もあれ頑張ってんだけど、なかなか上手くいかないとこあってさ。コツとかあんのかなって」 「あ〜なるほど⋯あそこめちゃくちゃ難しいよね。俺も時間掛かったし、そこクリアした後に⋯こうなっちゃったから。つい夢中になりすぎたかも」 「⋯頼むから急にぶっ倒れんのだけは止めてくれよ。マジで心臓止まるかと思ったわ」 「⋯⋯その時はどうも、大変お世話になりました⋯⋯ゴメン。」 そう言えば何度も俺にゲームの進展を聞きに来てたな、なんて数日前の光景を思い出す。あの日も確かその為に俺の部屋まで遊びに来る予定、だった気がする。 ⋯⋯なんだかその時が懐かしく感じちゃうなぁ。 あの時、俺が急に倒れた時の、あの瞬間のアキの表情を今でもしっかりと覚えている。 すっごい驚いた顔で目を見開いて、俺の名前を何度も呼んで、 『ゆうっ⋯⋯っ夕!!おい!!夕!!しっかりしろ!』 だなんて、あんなに余裕の無いアキの顔を見たのは初めてだった。俺の名前をあんなに沢山口にしてくれたのも、初めて。 ───結構良い感じだったかも。 「ねぇ、今度アキが体調を崩しちゃった時は俺が丁寧に全部看病してあげるからさ。その時はすぐ連絡してね?」 「⋯⋯いや、やめとくわ。なんかお前に診てもらったら余計に悪化しそうな気がするし。得意でもねえだろ、そう言うの。⋯だから別に良い。遠慮しとく。」 「何言ってるの?アキの看病が得意分野なんだよ俺。知らないでしょ?その時はと〜っても優しく色んなことしてあげる。」 「何で俺限定なんだよ⋯⋯知りたくもねえわ。⋯⋯なんかそうやって言われたら余計に信じらんねえ。その時は絶対に俺の所に来るなよ」 「えぇ〜?!なんで??ちゃんと俺に連絡してよ!じゃないとアキの部屋のドアぶち壊してでも行ってやるから!!」 「⋯⋯本当にやるよな、お前は。勘弁しろよ。⋯って、んな事は良いから、全部食ったのか?そのゴミ捨ててくるから。⋯水は?喉乾いてねえの?」 「⋯⋯な〜んか、アキってさぁ」 「何?」 「い〜や!!やっぱ何でもない。⋯喉乾いちゃったから、水貰っても良い?」 「⋯⋯んだよ。⋯持って来るから、そこに居ろよ」 「はいは〜い」 ソファーから立ち上がり、俺の為に飲み物を用意しに行ってくれたアキの後ろ姿をぼんやりと見送りながら、不意に俺の口許が緩んでく感覚を覚える。 こら、我慢しろ。 両腕を顔の前に持ってきて顔全部を覆うように乗せてしまえば、バレないように隠してしまう。 何だかんだ言いつつも、俺の事を絶対に優先してくれるアキ。そして出来ないと伝えたら何でもやってくれる。 『アキってさ、俺だけには激甘だよね』 って、本当は言葉にしたかったけど、そんな事言ったら変に身構えて「自分のことは自分でやれ」って言われそうだから、言わない。 だって、アキに甘えるの大好きだもん。 これからも俺に鬼ほど甘くて、そして優しいアキに沢山構ってもらって。 俺ばっかに見えて、気付いたらアキの方が俺にずぶずぶに浸ってくれるようになるかもしれない。 だってアキが俺に甘いのは、アキも俺のことが好きだから。 好きな子は放っておけないタイプらしいし。 だから俺が甘えるのをやめちゃった時なんて、なんで急に⋯?って、ビックリしちゃうかもしれない。 そして、アキはその間俺の事だけを沢山考えてくれるようになって、俺にもっと夢中になっちゃうよ。ぜ〜ったいにね。 恋の駆け引きって、ずっと押してばっかじゃ駄目。引くのも大切。 その引き際を探すのが大好きなんだよなぁ。 今はまだ引く時じゃない。どんどん押していかなきゃ。 だから俺は沢山アキに見て貰えるように、ドジなフリを続けていけばいい。アキが俺の事を放っておけない理由なんて、そりゃあ⋯さ、 俺がそうさせてるから、ね。 何度も何度も気付かれない様に、すこしずつ傷を刻んでく。 ───、ゆう。⋯⋯⋯っ、おい、寝てんのか?⋯⋯ 「⋯夕。水持ってきたけど⋯⋯。なに、また体調悪くなってきてんの?」 「⋯ん、大丈夫だよ。ちょっと考えごとしてただけ。」 ふと、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。ぱっ、と腕を退かせば、少し不安気に俺の顔を覗きんでいるアキと視線がぶつかり合う。 気付かなかった。 何も無いよ、と緩く首を振って微笑んでみせては、受け取った水のペットボトルの蓋を開ける。 が、急にその手を止められてしまう。寝 たままシュークリームを食べることはなんとか許されたけど、水だけはさすがに見逃されなかった。

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