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俺とアキ 終わり

「⋯⋯いい加減にしろ。その服汚して着替えなきゃいけねえってなったらお前がダルいだけだろ」 「だから大丈夫だって。いつもこうして飲んでるんだって教えたじゃん」 「それでも信用ならねえって言ってんの。手伝うから、⋯⋯おら、座って飲め」 俺の二の腕辺りを掴んで力強くガッと引かれることで渋々身体を起こす。そのまま背もたれに身体を預けながら蓋を開けようと力を入れてみるけどなかなか上手くいかない。 あれ⋯マジか。 「⋯⋯ジジイかよ」 「そのジジイだって開けられるかもしんないじゃん。」 「そもそもお前が出来てねえんだろうが」 「まあそれはそう⋯ですね?⋯⋯ありがと。」 蓋と苦戦してる俺を冷ややかな視線で見てくるアキ。なんか失礼だな。 俺の手から奪い取るようにペットボトルが再びアキの手に戻されてしまえば蓋を開けて、そのまま渡される水。 短めの感謝の意志を伝えてペットボトルの飲み口を唇に押し当てると、乾いた俺の喉奥に水をゴクゴクと流し込んでいく。 「っは〜、生き返った。」 「⋯⋯また喉乾いたら教えろよ。」 「は〜い。⋯⋯あぁ、ねえ。アキ?」 「今度はなに」 飲み終えたペットボトルの蓋を閉めて、コトン、と俺の隣に置けば、アキの名を呼びながらその腕を軽く引いて俺の隣に座るように促す。 眉を寄せて不思議そうな表情を浮かべながらも素直に腰を降ろしてくれるアキの顔を覗き込みながら、ソファーに置かれたアキの手の上に俺の手を重ねてそのままぎゅっ、と互いの指を絡め合うように握りしめる。 繋いだその手を引き寄せて、アキの手の平に俺の頬をすりっ、と擦り寄せてみればなんだか擽ったそうにアキの瞳が少しだけ細くなる。 「俺が⋯⋯もし全然動けなくなっちゃったらさ、アキはずっと俺のそばに居て、また色んなこと手伝ってくれる?」 「⋯⋯⋯んな事わざわざ聞かれなくてもやってやるから。⋯ってか、逆に今のお前は何が出来んの?もう既に動けない奴が目の前にいんだけど」 「たしかに。それ言えてる」 「もう良いか?俺他にやる事あるか「ちょっとストップ!」」 「⋯⋯ハイ。なんでしょうか」 「あの、⋯おしっこ⋯⋯行きたい、かも」 「⋯っ⋯⋯ほんとに手のかかるヤツ。」 「すみませんねえ⋯もう、身体が言うこと聞かなくて⋯」 「良いから、少しは力入れて歩け⋯⋯っ⋯」 風邪っぴきで少し体重は減ったかもしんないけど、別に女の子みたいにめちゃくちゃ華奢だとか、ガリガリな方でも無い俺の身体をよいしょ、と支えてくれるアキは、少し辛そうだった。細身だとよく言われるけど、それでも男一人分の身体支えるのはキツいよね〜。 でも力入んないのはホントの事だし。壁を伝いながら、アキに支えてもらう体重を少しでも減らすように俺も体に力を入れて、頑張って前に進んでいく。 「⋯⋯そこで、待ってる⋯から、終わったら言えよ」 「わかった」 少し息が上がって苦しそうなアキの言葉にこくん、と頷いて、ドアを閉めてくれた事を確認すると便座に腰を降ろした状態のままズボンと下着を下げて用を足す。 は〜ぁあ、漏れるかと思った。あぶねあぶね それにしても、さ〜⋯⋯そろそろ終わっちゃうんだ、アキとの看病生活も。 ──寂しいなぁ。あんなに頑張ったのに。 せっかく頑張って何日も夜更かしして、アキの見てない時はご飯食べるのも我慢して、それで寒い中ず〜っとベランダに出て身体冷やしてみたらすぐイケた。 めちゃくちゃ辛かったけど、でも、熱出すのって結構⋯⋯思ってたよりも簡単な事だった。 ずっと部屋に閉じ込められちゃうのは流石に想定外だったけど⋯もっとイチャイチャできるかと思ったのに。 だって大人しく寝てなきゃいけないんだもん。アキは部屋の外で門番始めるし。 それでもアキが側に居てくれるなら、って思ったら頑張れた。 熱が下がったら、次は何をしようかな。アキに構ってもらう方法って案外簡単な事ばっかなんだよね。 だって、すぐ心配してくれるから。 ⋯⋯あ!ってかさぁ、もっと派手に転べばよかったかな? それで足捻ったりなんかしてさ、って⋯⋯⋯まあ、そんな余裕全然無かったんだけど。 アキが顔に貼ってくれた絆創膏をガリッと指で引っ掻きながら、色々と考えてみる。 こんな小さい傷なんかじゃすぐ治っちゃうしなぁ。 ⋯⋯要らね。 ─骨とか、折ってみるのもいいかもね。足だったらなんとか、行けそうな気がする。高いとこから飛び降りて、っ⋯⋯さすがに、俺でも怖いや。それはまた今度。 ⋯⋯腕からでも良いか。 そしたらきっと大慌てで駆け寄ってきてくれて、ずっと俺の側で一生懸命看病してくれるんだろうなぁ。 腕を犠牲にするなら絶対にアキの目の前でやってやんないといけないし⋯ん〜っ⋯どんな方法がいいんだろ。 でもあんまり痛そうなのはアキがトラウマになっちゃっても可哀想だし、俺もやだ。痛いのが好きって訳じゃないし、寧ろ⋯⋯大っ嫌い。 だけどアキが俺の事だけをずっと見てくれるなら、なんだって頑張れる。それで俺の身体が何度ボロボロになったって全然構わない。 俺に傷が付けば、ずっと、ず〜っと、俺の名前を呼んでくれて、無償の優しさを俺にくれるよね。 だってアキは俺に甘くて、そしてとっても『優しい』から。 ─── 「⋯⋯ごめん、お待たせ。」 「あ〜⋯また戻んなきゃいけねえのか。向こうが遠く感じるわ」 「うんうん、2人で頑張ろ」 「⋯⋯っなんかムカつくな」 またアキに支えてもらいながら、1歩1歩、歩き出す。 「⋯⋯ん、なんかお前⋯⋯⋯またそこ血出てんだけど。⋯触ったのか?」 「え?どこ?⋯⋯⋯、⋯あ〜なんかちょっと痒くて引っ掻いちゃったかも⋯」 「また後で貼り直してやるから、あんま触るんじゃねえぞ。」 「⋯⋯はぁい」 ⋯⋯こんな役に立たない傷でも、すぐに気付いて心配してくれるんだ。 嬉しいなぁ。 ─────── 全部計算だったり、じゃなかったり。 アキの事が好きで好きでたまらないお話。 終わり。

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