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もう一つの… 3
突然腕を引かれ、戻る場所とは真逆の2階へと上がる階段まで強引に引き摺られてしまう。
「良いから良いから〜」と先程までの仏頂面は何処へいってしまったのか、ご機嫌に鼻歌まで歌いながら階段を登り続ける夕の歩幅に合わせて慌てて追いかけていけば、辿り着いた先には屋上へと繋がる扉が一つ。
「此処ね、いつも鍵が閉まってて開かないと思ってたでしょお。実は...こうする、と...ほら!」
「...、おぉ。開いた」
南京錠で固く閉ざされ、立ち入り禁止と分かりやすく示されていた筈のドア。
いつ何処の誰が先にその仕組みを解いたのか、そこまで知る術は無いがただ鍵が閉まっている様に見せ掛けただけの物だった様だ。ガッチリと閉ざされている筈の南京錠は左右にズラすだけで簡単に解除され、意図も簡単に屋上への侵入を許してしまう。
「出る時はまた同じようにこうやって、戻すだけで何回でも出入りできますよ〜ってわけ」
手慣れた様に説明してくれるが、まあ、この先覚えていても使用する機会は無いだろう。バレて説教されんのも面倒だし。と早々に夕の手元から視線を逸らし、扉のその先の景色に意識を向ける。
「意外と綺麗なんだな」
「でしょお?案外知ってる人も少ないし、静かだからってよくサボって寝てる人とか居たりするけど…今日は居ないみたいですねぇ」
施錠し、生徒を寄せ付けない様にしてる割には意外と過ごしやすそうな場所で、思っていたよりも老朽化は防がれていた。
先にドアの向こうへと進む夕の後を追い掛けて屋上に足を踏み入れる。肌に突き刺さる冷気や強い風当たりから、流石にこの時期に寝てる人は居ないだろうと奥へと歩みを進める事に。
寒さから身を守る様に腕を組みながら、それでも初めての場所への好奇心の方が上回り周りを見渡して居ればふと、歩みを止めた夕の背が目の前に広がった。
「また...。急に止まるなって、危ねぇだろ」
「ここ、俺のお気に入りの場所」
もう少しでぶつかる所だったぞ、とそう言葉を続けたが、どうやら目的の場所に着いたのらしい。何の戸惑いも無くひょい、と目の前のフェンスに足を掛けて登り始める夕の姿に思わずその腕を掴み制止させる。
「っおい!!何してんだ馬鹿!!今すぐ降りろ」
「あ〜、大丈夫だって。そこ、此処からは見えずらいけど下に降りられる様になってるの。」
『そこ』示された場所をフェンス越しに覗いてみれば確かにもう一段、下に広がるスペースが有り、どうやら目的地まではこのフェンスを超えなければ行けないとの事。
普段から危なっかしい夕の事、それでも手を滑らせてそのまま落ちてしまうのでは無いかと気が気では無かったが、そんな心配を他所に手馴れた様にフェンスを乗り越えると先に下のスペースへと辿り着き「おーい」と手を振る姿にホッと胸を撫で下ろす。
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