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もう一つの… 5

改めて、俺に向けて再び伸ばされた腕が優しく頬に触れて、指先でそっと撫でられる。 「⋯⋯あ、赤くなってる。⋯痛かった?」 「そりゃそうだろ。⋯⋯ってか、擽ってえし」 「ん、そっか」 俺の頬を触れてただけのその指先が俺の顔の輪郭をなぞるように動き、そして俺の唇の上で動きを止める。 感触を確かめる様にそっと唇に触れるその手の感覚が擽ったくて、肩を竦めると俺の顔をじっと見ながら離れていく夕の手。そしてその手は俺の手の上に重ねられる。 「アキはさ、俺以外にもこうやって素直に触らせてあげてるの?」 ──不意に問われたその言葉に、俺の心臓がドクン、と跳ねる音が聞こえた。 そもそもこんなにベタベタと俺に触るのはコイツだけだが、その本心が知りたくて敢えて答えを外し様子を見てみる。 「⋯⋯、⋯⋯何で?」 「だって俺がこんなに頑張ってる、のに⋯⋯その間に他の人がアキとイチャイチャしてるのは違くない?」 「お前が頑張ってる⋯⋯?⋯例えば?」 「だから!⋯⋯その、⋯⋯。えっと〜⋯⋯あっ!!サッカーだよサッカー!!⋯こんな怪我しちゃうくらい頑張ってたじゃん」 ──マジかよ。 「⋯ふ、はっ!」 言葉を選ぶように、視線をきょろきょろと彷徨わせながら答えを探している夕の姿を静かに見守っていれば、やがて終着点を見つけたのらしく、導き出されたその言葉に堪えきれず、笑ってしまった。 「っ笑い事じゃないのに!真剣だよ?俺」 「分かってるって。顔ぶつける位頑張ってたんだろ?」 「⋯⋯バカにしてる?」 やがて夕の頬が不機嫌に膨らんでいく様子を目の前にしながらも、俺の笑いは止まらなかった。 誤魔化し方にも程がある。頑張ってるって言うか、明らかに余所見してただけだろ、あれは。 ──やがて、俺に向いていた視線が地面に落ちて、俯いたまま動かなくなってしまった夕に気付く。 流石に笑いすぎたかと夕の顔を覗き込む為に緩く首を傾げた瞬間、ぱっ!と顔を上げた夕の腕が俺の肩に伸ばされて、そしてそのままドンッ!と背後に倒されてしまう。 「っ痛ッてぇ⋯⋯んだよ次は。」 「⋯もうゆるさない。アキなんて、このまま笑いすぎてどうにかなっちゃえば良いんだ!」 「⋯は?⋯⋯待っ⋯⋯!!ッ⋯⋯!!」 嫌な、予感はした。 再び俺の上に跨るように乗っている夕の顔は怒ったままで、ガシッ、と脇腹を掴んだその手が容赦なく俺の脇腹を擽り始める。力加減の無いそれは擽ったい、と言うよりは、どちらかと言えば痛覚に近かった。 待て、と伝えてもその言葉が伝わる筈もなく、結局俺が謝るまで執拗に続いたそれは、とても⋯⋯とても、長く感じた。 「っ、⋯⋯マジで、疲れるから⋯⋯」 「だってアキが悪いじゃん。人の頑張ってる姿を笑うから」 「⋯⋯そうじゃねえって言ったじゃん。」 「⋯素直になった方がいいと思うけど。またやられたいの?」 「分かったから」 一気に体力を消費してしまった事で起き上がる気力も無いとしばらくそのまま横になって居れば、顔を覗き込んできた夕とのやり取りの中で俺の言葉が気に食わないと、脅される様に再び夕の手が俺の脇腹に触れる。 「違うでしょ。ごめんなさい、は?」 「⋯⋯っ、⋯!!ごめん、なさい。」 ほぼ拷問にも等しかったあの時間をもう一度、と言うのはあまりにも厳しくて、夕の腕を慌てて掴み引き剥がしながら素直に謝罪の言葉を伝えて。 「よし!」と機嫌良く笑うその顔を見ながら漸く収まってくれたのらしい怒りにほっと胸を撫で下ろしつつ、ふと誤魔化されたままの答えを思い出せば何気無く問い掛けてみて。 「で、結局何なの。夕が頑張ってる事って」 「⋯まだ聞くの?それ」 「本音じゃなかったろ。明らかに嘘だってバレバレなんですけど」 「べつに、嘘じゃないけどね。⋯⋯アキに見てもらえるように頑張ってるの。俺の事を気になって欲しいな、って」 へえ⋯⋯。 その言葉に、ふと思考を過ぎらせる。 気になって欲しい、か。

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