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もう一つの… 終わり

「アキの、心臓がドクンドクンってしてる」 「お前の心臓だって似た様な音してんじゃねえの。知らねえけど」 「自分じゃ聞けないし、貴重な体験じゃない?心臓の音だなんて。アキも聞いてみる?俺の音」 「…まあ、暇だし」 特に否定する理由も無いし、と俺の上から起き上がる夕の動作に合わせて地面に横たえていた体を起こせば、ひんやりと背中から伝わる地面の冷たさにぶるりと体を震わせる。 目の前に居た夕が腕を伸ばし、俺の頭を抱き抱えると今度は自分の胸元に引き寄せながらそっと身体を寄せて俺の顔を覗き込む様に首を傾げる姿が瞳に映った。 「どお?俺の心臓の音、早い?遅い?」 「ん〜、まあ、普通なんじゃねえの。特に異常なし、って感じ」 互いに触れ合う部分から伝わる温もりが冷えた体に心地良くて、暫くこのままで良いやなんてそう思いながら体から力を抜き、身を任せる。その雰囲気を感じ取ったのか同じ様に身動きせず、俺を腕の中に納めたまま俺の頭に顔を埋めた夕の影で俺の視界は黒く、閉ざされてしまった。 「ゆう、何も見えねえ。真っ暗」 「良いじゃん、落ち着くでしょ?」 「お前の髪の毛も顔に当たって、擽ってえ」 「今すっげえボサボサだよね、俺の頭。…、…あのさ、アキ?」 「ん、何」 肌に伝わる髪の毛の感触に少し肩を竦めながら、ふとそこから漂う知り尽くした優しい匂いに包まれている事に気付く。 居心地が良い、なんて素直に伝える事の出来ない言葉をそっと喉の奥に閉じ込め、ふと呼ばれた名に反応を示すと続く言葉に耳を傾けて。 「俺のさ、何処、が壊れたらアキでも治せる?腕、とか足…とか。めちゃくちゃ痛そうだし、覚悟が要るけど頑張るよ?俺。だけど、その時は絶対に病院になんて行かない。だってアキに治してもらわなきゃ意味が無いもん。もし、腕とか足を治すのが怖いって言うんなら、指とか爪とか、小さい場所でも良いよ。他にも⋯⋯ん〜っと、でも、身体って色んな場所が有るから迷っちゃうや。どうしたらいい、かな?」 何だ、そんな事か。 「…、…例えお前が腕を折ったりしても、俺には治せない。そう言っただろ?他の場所だって、壊れたら戻せない場所の方が圧倒的に多過ぎる」 『何でも』そう望む夕に、思考を巡らせる。その内自分を壊す事に夢中になって死んでしまっては、意味が無い。あくまでも限度が有り、無理な事が有る、そう伝える事で自ら行動を制御し、鍵を掛ける様に。そう意識をさせなければならない。 「でもさ、その内お前は満足出来なくなるんだろ?きっと。だから、俺だけが治せる場所を教えてやる」 何度も何度も絶えず自分を傷付ける夕の行動が何を示していたか、気付いていた。全ては俺の為に、俺だけを求めるだけの行為だと。制御するだけでは物足りなくなる事位、予想は付いている。それなら、俺だけが出来る方法を。 「心を、お前は自分で壊し続けたら良い。俺に求められる様に何回も何回も自分に傷を付けて、俺だけを見てれば良い。その度に俺はお前の傷と、心を一緒に治してやる。だけどお前に傷が無い時は、目を離してしまうかもしれないな」 夕から問われた言葉に対して、初めの内は拒絶にも似た内容で言葉を選んだ事は十分に理解していた。だからこそ感情の読み取れない夕の行動から目を逸らさない様に、全てを伝え終えるまで静かに、そしてゆっくりと言い聞かせる様に繋いで居たのだが、顔を上げた夕の表情が驚き混じりの感情を見せている事にふと気付き、表情を緩める。 「今、お前の心はどうなってんだろ?」なんて笑って伝えてみれば次第にその表情は穏やかなものとなり、そして俺の腕を引き寄せて自分の心臓へと押し当てる夕の行動に身を任せ、鼓動を感じ取る。 「俺の、心。さっきよりもね、すっごく早くて、全然止まんない。これって、壊れてるのかな?」 確かに、掌から伝わる心臓の音はドクドクとさっきよりも早い気がする。 これは重症だな、なんて笑って返せば、「でしょぉ〜?もう絶対治らないんだから」と誇らし気に語る夕の姿。 頭をくしゃり、と撫でれば元から緩めに結ばれていた髪ゴムが限度を迎えたのらしく、地面に落ちてしまった。 サラり、と解け落ちる柔らかな髪の毛と共に、近付く夕の顔。俺の好きな香りが目の前でふわりと広がった。 夕が求め続ける限り俺は特別な存在として、一番近い場所で傍に居続ける事が出来る。だから俺は永遠にそこから離れられない様に何重にも絡み合った言葉の鍵を掛ける。何回も、何回も。狡い...かもしれないが、これも立派な傷の治し方なのだ、と。それが当たり前だと思い込んでしまう様に。 俺の優しさはとても『痛いもの』 __________ つまりは共依存

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