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もう一つの⋯ 6

「それだけで良いの?夕は」 「⋯⋯それだけ⋯?って、どういうこと⋯?」 「俺はお前の事を気になる存在、ってだけで認識してても良いのかって事。それ以上は無し。って事だろ?」 夕の本心を問い掛ける様に、その言葉を引き出していく。 そもそもコイツは俺が何も思ってない奴に対して気を許し、簡単に触らせてやるような人間だとでも思ってんのか。 ──なんか、気に食わねえな。 「っそれは!!⋯⋯違うけど。⋯でも、やっぱ焦っても仕方ないし、まずは気になってもらう事から始めた方が良いのかな、って」 「それでサッカーをしてる自分の事を見てもらって、かっこいいだのなんの、気になってもらう事から頑張ってる。って言いたかったのか?」 「⋯⋯う〜ん⋯そういうこと、なのかなぁ⋯⋯。」 ──自分から言い出した癖に、曖昧な反応してんじゃねえよ。 ⋯⋯でもまあ、そのやり方はコイツらしい⋯って言ったらアレだけども。他にも色々方法は有りそうだけど、その方が手っ取り早いのか、なんなのか。 得意な事で点数を稼げるならそれが合ってんだろうな。コイツにとっては。 ───⋯十分に体力も回復してきた所で、「よっこらせ、」と身体を起こす。 改めて夕と向き合う形で腰を降ろせば、今度は俺がこいつの胸元を力強く押して、そのまま後ろに押し倒してしまう。 「っ⋯⋯!!⋯あ、⋯な、なに⋯⋯?」 「さぁな。何だと思う?」 「⋯⋯っさっきの⋯お返し、とか⋯」 「それでも別に良いけど」 的外れな夕の言葉に対して、それが良いならと夕の上に跨って、脇腹に触れてやる。 すると、慌てて俺の腕を退け「違う!」と首を振る姿を見下ろせば、まあ良いか。と素直に伸ばしていた手を引いて。 「⋯⋯でさ、俺がお前の事をもう既に気になってたとしたら、次はどうすんの?」 「⋯次⋯⋯っ、?⋯好きになって、もらう⋯⋯とか」 「その次は?」 「その次?⋯えっと、⋯⋯恋人、になるでしょ?⋯お付き合い、とか」 「じゃあその次は?」 「っ⋯えぇ⋯⋯ちゅーとか、⋯したいなぁ」 ──ちゃんと段階を決めてんだな。意外。 必要以上に俺に触れて来ない事を思い返せば、まあ、そんなもんかと納得する。 ⋯⋯どうしたら、こいつは素直に伝えてくれるのだろうか。 下ろしていた腕を夕の顔まで伸ばして、俺に触れてたみたいにそっとその頬に触れた後、指先で唇の形をなぞる様に優しく触れてみる。 俺の指の感触が擽ったいのか、ギュッ、とその唇が閉ざされて、眉を寄せて困惑した表情を浮かべている夕の姿を目の前にしてしまえば、ぞくり、と俺の中の何かが徐々に込み上げてくる。 首筋を撫でる様に指先を這わせながら、夕の顎を捕らえてしまえばそのままゆっくりと顔を近付けていく。 「キスの次は、何をすんの?」 「⋯⋯っ、⋯⋯」 徐々に赤く染まっていく夕の顔を見つめながら、そっと問い掛けてみる。あと少しでも近付いてしまえば、互いの唇が触れてしまう距離感。 やがてこの間に耐えきれなくなったのか、ふい、顔ごと視線が逸らされてしまえば、顎を掴んでいた指先に力を入れて俺と視線が合うように目の前で固定してしまう。 「おい、話の途中だろうが」 「だ、って⋯⋯!!」 「だって、何?」 更にぐいっ、と顔を近づけてやれば、観念したとでもいった風に「分かったから!!」と慌てて視線が俺に戻される。 「ちゃんと目を見て話せ」 「だから、分かったってば⋯⋯!」 ──あぁ、こうしたら話を聞いてくれるのか。 ふとした瞬間に辿り着いた、コイツの手網を引く方法。普段ならへらへらと聞き分けの無い夕も、今は俺の目の前で大人しく話を聞いてくれている。 「⋯まあ良いけど。でもさ、どうすんの?⋯⋯お前がそうやってノロノロしてる間に俺んとこに他の奴が来たら。」 「それはっ⋯⋯!絶対に、無い⋯から」 「何でお前が絶対だなんて言いきれる訳?」 「⋯⋯だ、だって⋯アキは、俺の事⋯放っておけない⋯でしょ?だから今日だって⋯俺の事心配してくれてる⋯し」 そうじゃねえんだわ。 そんな事は分かっていて、俺だってそう言う『 フリ』をしているだけだ。 中々出て来ない夕の本心に、痺れを切らしてしまう。 こうして必要以上に距離を詰めても出て来るのは上辺だけの言葉で、予想以上に時間が掛かってしまう。 ⋯⋯⋯さっさとしろよ。

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