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もう一つの⋯ 7
「それってさ、たまたまそこに俺が居るだけだろ?だから俺は助けてやってんだけど。⋯あぁ、またやってんな、って。そんな事はただの友達同士だって出来る事だろ」
「ちがっ⋯⋯!!⋯⋯たまたまなんかじゃ⋯なくて⋯」
俺の言葉を聞いた途端、夕の顎を掴んでいた腕を掴まれて、ばっ!と俺の身体を押し退け起き上がった夕と視線を合わせる。
怒りや悲しみ、不安、色んな感情が合わさった表情で俺の目をじっ、と見つめているその顔を見つめ返しながら緩く首を傾げ、その言葉の続きを待つ。
「⋯⋯⋯何?」
「⋯⋯アキに見て貰えるように、⋯アキの事が好き⋯⋯だからやってるの。⋯俺の事を心配してくれるように、気になってくれるように⋯⋯。だから、頑張ってるよって。ちゃんとアキの目の前で怪我⋯して、さ⋯アキに治して欲しくて⋯」
「⋯⋯⋯、⋯そうだよな。」
「だから、偶然なんかじゃないよ。友達とか⋯そんなのじゃなくて、ちゃんと俺の事を見て欲しい⋯⋯から、その⋯⋯俺はアキの事が好きだけど、アキも俺の事を好きになってくれないかな、って。」
──何度も押し引きをして、そしてようやく夕の口から溢れ出した俺に対する想い。
長えわ、馬鹿。
とは言っても⋯それが全部態度に出てるからずっと前から知っていた、と言うか。
いつまでもズルズルと曖昧な関係を続ける事に正直飽きていた為、さっさとコイツから引き出してやろうとタイミングを図り続けていた。
行動は大胆な癖にそれが言葉として出て来ないそのアンバランスさにイライラを募らせながらも、気付かないフリを続けていた。
──俺の目の前でわざとドジなフリを続けてんのも、全部分かっている。
真面目にやれば出来る事を、わざと手を抜いて俺に助けを求めてくる。
まあ、そもそも⋯元々ドジな部分はあったし、落ち着かない所とか気の抜けてるとこは夕そのものなんだろうけど、ヘマをする機会が急に増え始めていた。
特に俺の目の前では。
何も考えていない様でその頭の中では様々な思考が飛び交い、どうしたら俺に振り向いて貰えるのか、色々考えた結果なのだろうが。
──そのきっかけがどうとか、そこまでは分かんねえけど。
だから今日だって、俺が見ている事を確信してわざとやっている。そしたら自分の元にすぐ来てくれるから。
いつの間にかその位の区別は出来るようになっていた。
本当にヘマをしただけなのか、それとも、意図的か。
俺の面倒見の良さを見抜いて利用されている事を知りながらも素直に付き合ってやった結果だけど。
⋯⋯ってかさ、こいつほんとに隠す気あんの?
告白ついでに出てきた言葉に矛盾を感じてしまえば、それが意図してるものなのか、夕を観察してみたけど何も変わりは無かった。
⋯⋯あ〜、これは普通に気付いてないだけのヤツか。
ドジなフリしてました、なんて俺にバレたらどうなるか分かんねえもんな。⋯⋯まあ、どうもしないけど。
「でさ、何を気にしてこんなに時間が掛かってんの?お前は。結構長い間アピール貰ってたけど、展開は全然広げてくれねえし。⋯⋯正直暇だったわ」
「⋯⋯へ?⋯⋯あ、いや⋯⋯なんて言う、か⋯⋯よく分かんなかったから。⋯⋯女の子の方が良い⋯とか、そこら辺がよく⋯⋯」
「まあ、そう言う話とかした事ねえもんな。そんな事くらいさっさと聞けって」
「⋯だって!!⋯それで無理、って言われたら⋯⋯おれ⋯⋯⋯」
言葉に詰まり、黙り込んでしまった。思考がまとまらないのかぐるぐると視線が色んな方向に散って、明らかに混乱している姿をぼんやりと見つめる。
そしたらまた、俺の前で怪我でもして⋯⋯気を引くつもりか?
⋯それともまた別の方法を考えるのだろうか?
⋯⋯なんか、骨折がどうだとかそんな話をしてた時に反応が鈍かった気がするし⋯⋯そっちの可能性は⋯⋯無きにしも非ず、ってか。
コイツのやりそうな事なんて目に見えている様なもんだった。
面倒な事だけ圧を掛けて避けさせながら相手をしているが、まあ⋯⋯それ以外の事なら、別に構わない。
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