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もう一つの⋯ 8
「⋯⋯てか、ちょっと待って。」
「何?」
「なん、でさ⋯⋯えっ??⋯⋯、アキ、俺に好きって言った?!」
「いや、まだだけど。」
結構長い間熟考してるらしい夕の姿を、その考えが落ち着くまで、静かに待つ事にする。
すると急に、何かに気付いた様に顔を上げた夕が俺の両手を取ってぎゅっと握り締めながら、今更ながらの事を問い掛けてくる。
そんな事を、考えてたのか⋯⋯?
──それにしては長すぎる様な。
ぽかん、と不思議な表情を浮かべて冗談交じりの言葉を伝えてみれば、すぐにそれを受け入れてそしてまたぶつぶつと呟きながら始まる夕の思考時間。
「⋯⋯っだ、よね⋯⋯。どう⋯しよう⋯女の子、好き⋯とか⋯わかんないなぁ⋯。ん〜⋯⋯」
⋯⋯いやいやいや、何ですぐに諦めてんの。ってか、本当にそんな事でずっと悩んでいるのか?
会話の意図が分からず、俺まで混乱してくる。
⋯⋯ん?別に俺の答えが欲しくないとか、⋯んな馬鹿な訳がねえよな。
掴まれたままの俺の手を夕の手の中から引き抜いて、夕の頬を力強く掴めばその意志を確かめるように、俺から誘導する様に問い掛けてみて。
「⋯⋯おい、そこの馬鹿犬。」
「⋯⋯っ、へ⋯?⋯⋯あ、はい⋯」
「お前はさ、俺とどうなりたい訳?」
「どう⋯って言われたらそりゃ⋯⋯、恋人⋯とか、好き同士になりたいよ俺は。」
「じゃあ、先に俺の気持ちは確認しない訳?お前の事をどう思ってる、とか。」
「アキの、気持ち⋯⋯?」
最初の方こそキョトンとした表情を浮かべていたのだが、徐々に正常な思考が戻ってきたのか俺の言葉の意図を理解して、忘れてた⋯⋯!と言わんばかりに、バッ、と俺に向けられた夕の視線。
なんで大切な話の途中でパニックになってんだこいつは。
流石に呆れ混じりのため息も出ますわ。
はぁ、と息を吐き出していれば、夕の頬を掴んでいた俺の腕をぎゅっと両手で握り締めながらじっと俺の事を見つめるその視線の意図に気付けば、視線を合わせてその言葉を待ち。
「⋯⋯あ、あの⋯⋯その⋯アキは、どうなの?」
「ちゃんと聞けよ」
「あ⋯えっと、どう、⋯⋯っ⋯⋯お、俺の事っ⋯!!」
「俺の事が、何?」
「っ、!ん〜っ⋯⋯おれ、のこと⋯!好き⋯デスカ?」
「なんだそれ」
もごもごと伝える言葉に迷いながらも、最後だけ、緊張からカタコトになってしまう夕の動揺がおかしくて笑ってしまえば、俺は本気だから。と眉を寄せて怒っている。
───なんだ、調子戻ってんじゃん。
「っだから!俺の事好きなの?どうなの?!」
「好きだよ、お前の事。⋯⋯ちゃんと待っててくれた俺にさ、有難う。って感謝しろよ」
「⋯⋯⋯⋯っ!!⋯あきぃ⋯⋯ありがとお⋯!!」
馬鹿にされた事に対しての羞恥からか、急かすように割り切って俺の気持ちを問い掛けてくるその言葉に対して、一瞬目を伏せた後、目の前の夕をしっかりと視界に捉える。
はっきりと、馬鹿な夕でも伝わるように俺の本心を伝えると、最初は驚いた表情で俺の事を見つめた後、パッ、と夕の表情が輝いて、そして次の瞬間にはぼろぼろと涙を零しながら泣いていた。
どうなってんだ⋯コイツの感情ってやつは。
まあ⋯⋯ずっと我慢してたんだもんな。そりゃあ感情だって爆発するか。
──いつから純粋な俺に対しての思いが別の方向へと歪んでしまったのだろうか。逆にその思考が思いを複雑なものへと変えて、そして拗れていたのだろう。
多分本人に聞いても覚えては無いだろうし、⋯⋯でも、最終的に正しい方へと進んでいるのなら別に良い⋯のか。
何が正しくて何が違うのか、そんなんよく分かんねえけど。
「なあ、夕。俺達ってさ、今どの段階なの?」
「⋯⋯段階⋯?」
「そう。お前に聞いたろ、好きだって分かったら次はどうすんの?って」
「あ〜⋯⋯えっと、恋人⋯⋯?」
「んで?お前はどうしたいの?」
俺の問い掛けに対して流してた涙をゴシゴシと乱暴に拭いながら、ん〜、と再び、夕のお悩みタイムが始まってしまう。
⋯⋯また始まったか。今度はどんな答えが出てくるんだろうな。
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