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なんてことない日常 2

「はぁ〜あ。でもさ、アキってほんとにモテモテだよね。アキの靴箱とか机の中とか見てさぁ?そういうモノを見つける度に回収してるけど、多すぎだよなぁ。」 「⋯⋯あ〜、だから毎日俺の机の中とかガサゴソしてんの?⋯⋯お前本当に色んな事を勝手にやってるよな」 「そうだよ?ちゃんと守んなきゃいけないからね。それで、ついでにね?アキの机の中も汚いから片付けてあげてるのも俺。気付いてた?」 「いや⋯⋯全く。」 「ちゃんとしなよ」 こいつにそんな事を言われてしまう日が来るだなんて、思っても居なかった。 流石に盲点だったと返す言葉も見つからなければ黙ってこの場から離れ、カバンに必要な物を詰めていく。 勝手に手紙やら何やらを処分してた事に関しては、そうだな。正直何をしてんだろうな、って疑問には思っていた。 毎回俺よりも先に靴箱を覗き、そして続けて机の中のチェックも始まる。 好き勝手にさせてたが、手紙とか何とか⋯そんなものに関しては正直俺も興味は無いし、過去に何度か素直に応えてやってた時もあるが決まって同じ状況が展開されるだけで、正直ダルい。それだけ。 こいつに言われるまでそんな事もあったな、なんて漸く思い出すレベルではある。 ちゃんとしなよ、か。まあ⋯⋯それはそうかもしれないな。 鞄の中に視線を向けてみれば案の定無造作に詰め込まれた荷物が存在していて、改めてこう言うとこだよな。と実感する。 夕にバレてしまう前にざっと大まかに中身を整えてしまえばそれを肩に掛けて支度が出来た事を知らせる。 「行くぞ」 「あ、ちょっと待って。その前に⋯アキ、こっち見て」 「何?」 不意に告げられた静止の言葉。まだ何か俺の部屋について諭す事でもあんのかと流れ的に身構えてしまうが、夕の方に視線を向けたその瞬間、一気に近付く互いの距離。 気付けば夕の唇が俺の唇に触れて、口付けが交わされた事を知る。 そして、モゾモゾと俺の首元に触れてる夕の指先の感触に気付き、何事かと一旦離れて様子を伺う。 「あっ⋯なんで離れるのよ」 「⋯⋯んでネクタイ結ばれながらキスされてんだよ。俺は。」 「ええ?こんなチャンスあんまりないじゃん。今のうちにやっちゃえ〜って」 「⋯⋯馬鹿。もう行くぞ、って言ってんの」 最後に位置が調整されて、いつの間にか定位置に存在していた俺のネクタイ。そう言えばすっかり忘れてたな。 もう1回!と俺に伸ばされる夕の腕から身を躱して、先に玄関まで向かう。後ろから拗ねたような声が聞こえてくる気もするが、朝からそんな事に構ってられる余裕なんて無い。 辿り着いた先の玄関で靴を履けば、先に外に出て夕を待つ事にする。相変わらず冷えた空気感をぼんやりと感じながら、出てきた夕の姿を確認すると鍵を閉めて先を歩き出す。 「⋯⋯っさむ〜!⋯最近冷え冷えだよねえ」 「お前それで寒くねえの?」 「いやっ、全然寒いけどね!」 外に出るなりぶるぶると身を震わせて俺にくっついてくる夕の姿を改めて見てみれば、長袖のシャツにブレザーのみで身支度が完結されている。 「⋯っ冷て。お前の手どうなってんの」 「ほんとだよねぇ!俺体が冷えやすくてさぁ」 「ならちゃんと防寒してこいよ。風邪引くぞ」 「確かにそれはそう!」 不意に俺の手に触れた夕の指先から伝わる冷えた体温に驚き、びくりと肩が跳ねてしまう。 そういや、夕から触れられる度にその手から体温を感じる事が少ないと言うか、いつも俺の体温が奪われている気がする。 「でもさ〜!俺が風邪引いたらアキが看病してくれるんでしょ?」 「差し入れくらいはしてやるよ」 「そんなんじゃないじゃん!ちゃんと俺の傍でさあ、身体拭いてくれたり熱計ってくれたりさ!ご飯とか食べさせてくれなきゃやだ!」 「まあ、リアルな話⋯別に良いよ。風邪っぴきの時に1人で何でもやんなきゃいけねえ、って大変そうだし身の回りの事くらいはしてやるよ。」 「⋯⋯⋯ほんと?ずっと一緒に居てくれるの?」 「⋯⋯様子を見ながらな」 要らん事でも考えてんだろうな。 そういう事をする時のこいつの目的は『構って欲しい』事が大前提で、今回の話もぴったりな条件だと心当たりしか無い。 面倒を見てやると言った手前、今更言葉を撤回しても更にややこしい事になるだろうと過去の経験から悟れば、それとなく言葉を返す事で話を終わらせてしまう。 しばらく変わりが無いか、様子を見てねえとな。 適当に会話を交わしながら寮の敷地から離れると、すぐに見えてくる目的地の校舎まで向かう。 「今日も!靴箱チェックはしますからねぇ!」 「勝手にどうぞ」 「ん〜、異変なし!完璧!」 俺よりも先に玄関へと駆け込んだ夕による靴箱の監視が始まり、そしてすぐに終わる。 靴を脱いで上履きに履き替えながら時々すれ違うクラスメイトと挨拶を交わしつつ、クラスまで向かう。 そしてクラスに着けば、俺の机の前で再び始まる確認作業。 わざわざこまめに見なくても良いだろ、と口を挟めば明らかに不機嫌な表情で何かやましい事でもあんのかと詰められるが、面倒だとさっさと席に戻る事を促しながら鞄の中身をさっさと片付けて携帯に触れる。 やがて俺が相手にしてくれない事に痺れを切らして、「もういい!」と机に戻っていく姿を横目で確認しながら再びその視線を画面に戻せば、普段からこまめに開いているアプリゲーを起動してポチポチとデイリー報酬の確認をしていく。 その間にも夕が居るであろう方向からじっとりとした視線が向けられている事を悟るが、まあ⋯⋯相手にし始めたらキリがねえし、今はパスで。

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