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なんてことない日常 3

「良かった、忘れなくて」 「めちゃくちゃ首痛いんですけど...?おい」 じんわりと走る首への痛みが、力加減なんて知りません。そう示していた。 勢いに任せて変えられた顔の向きが解放される事は無く、そのまま頬を摘んで遊び始める夕の両腕を掴んで離してしまえば、未だに残る首の痛覚を和らげる為にそっと擦りながら不満を漏らす。 「痛いのとんでけ〜って、今度は首にチューしてあげよっか?」と気楽な言葉に対して、下手に騒げば無駄なおふざけが始まる事を瞬時に察悟る。 ここは一旦大人しく身を引くべきだろう。 ご機嫌な夕を部屋に残してベッドサイドに置かれたままの鞄を手に取り先に歩き出せば、慌てて後を追いかけてくる足音を聞きながら部屋の外へと歩みを進めた。 授業終了のベルと共に「さようならぁ〜!」と誰よりも早く、そして大きな声量で下校の合図を告げる声が聞こえる。 もうそんな時間か、なんて考えてる暇もきっと無いだろう。 「アキ〜?帰るよほら、早く立って」 夕が迫り来る前に、となるべく急いで帰る支度を始めたつもりだったが想像以上の早足で俺の席まで辿り着いていた様だ。 「...っ、ちょっと待て!お前さぁ、俺の腕だけ先に持ち帰って一緒にゲームでもするつもりか?」 「は?何言ってんのぉ?ふざけた事言ってないで早く手ぇ動かして」 待つ気なんて更々ありません。寧ろ今すぐにでも立て。そう言わんばかりに加減を知らない力で腕を引かれてしまえば、そりゃもう痛いを通り越して訳が分からない。もげたらどうするつもりだ馬鹿力が。 現状を問いかけて見れば、見事な逆ギレ。 何なんだお前は?? 何とか自由な片腕で教科書や筆箱を鞄の中に押し込み、やっとの事で帰宅準備を終えると「も〜遅すぎる」と不満たらたらの夕に引き摺られる形で教室から連れ出されてしまった。 いや、お前が掴んでるその腕を返してくれたらもう少し早く準備出来たけどな。

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