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なんてことない日常 3

「あ〜き!かえろ」 「あぁ」 授業終了のベルと共に駆け寄って来た夕の言葉に頷いて鞄に必要な物を詰めていけば、席を立ち隣に並んで歩き出す。 やがて辿り着いた先の靴箱で靴を取り出して履き替えるが、そういえば!と思い出したように慌てて俺の靴箱と俺の手元を交互に見る夕の意図に気付けば、何も無いから。と両手を差し出して。 「別に怪しいとこも無かったろ」 「まあまあまあ、今回は許してあげましょう!」 「何で俺が許される側なんだよ」 早く行こう、と腕を引かれて先を歩き出す夕のペースに合わせて、その隣に再び肩を並べると目的の寮まで歩みを進める。 その途中で一旦コンビニに寄って適当に晩飯やお菓子、飲み物を購入して夕の部屋まで向かえば鍵を開けてもらい、何度も通い慣れたその部屋の中へと入って。 先に買ってきた物を袋から出して片付けている間にぱぱっと部屋着に着替えたのらしい夕が戻って来た事に気付き、顔を上げる。 「アキも着替えてきなよ。後は俺がやっとくから」 「んじゃ、後はよろしく」 「は〜い」 夕に残りの荷物を託して、寝室まで向かう。 何度も互いに部屋に戻るのは面倒だから、といつしか夕のクローゼットの中に俺用の収納スペースが出来上がっていて、その中から適当に部屋着を選んで取り出し着替えていく。 着替えてる間、何気無くそのクローゼットの中身に視線を向けてみる。 大胆な性格とは逆にこまめに整理されていて、俺の収納スペースでさえ正直俺の部屋より綺麗にまとめてくれていた。 今までその現状に気付かずにそれが当たり前だと受け入れていた俺も俺だが、⋯⋯そりゃ⋯しっかりしろだなんて言われる訳だわ。 ギャップ、というものがもしかしたらこいつにも適応されるのではないか、と色々思考を巡らせて居たが、リビングから流れて来る不穏なBGMに気付いた瞬間我に返り、はっと顔を上げる。 静かにクローゼットを閉じてリビングまで戻れば、先にゲームの設定をしていたのらしい夕の隣に近付いて、ソファーに腰を下ろす。 「で、結局何のゲームやんの?」 「なんか謎解きみたいなやつ。アイテム回収しながら先進んで〜謎解いて〜、みたいな」 「⋯⋯の割には不穏すぎねえか?」 「まあまあ、なんかバケモンとかそこら辺が出て来るらしいし、ちょっとホラーっぽいとこはあるかもね」 明らかにテレビ画面に映されているそれが廃墟と言うかなんと言うか、朽ちた建物に暗めの雰囲気、流れるBGM的にホラー系の類だと理解はするが、それが俺の想像しているものとは異なると説明されては、納得するしか無く。 明らかなホラゲーはそもそも苦手だと避けていたが、まあ⋯やってみないと何も分かんねえしな。 意外と暗め雰囲気のスタートから最終的には感動ストーリーに繋がる事だって多く、今まで夕から勧められて一緒に遊んできたゲームはどのシリーズでも楽しんでプレイ出来てる事を思い返せば、今回もそういう類だと素直に渡されたコントローラーを握り締めてテレビ画面まで視線を戻す。 ──意外と、スムーズに進むもんだな。 操作方法も簡単で、特に難なく進んでいく。ように感じて居たが、途中から明らかにストーリーの節々で『呪い』やら、『怨霊』やら、見過ごす事の出来ないフレーズが繰り返されている事に気付いてその度夕にこれはどう言う意味だと聞いてはいるが、軽く流されるだけで会話が終わってしまう。 確かにストーリー自体は面白く、話も作り込まれてはいるがどうしても気が進まなければ謎解きも安易に解けなくなってしまう。 「⋯⋯で、これがこうだから。⋯⋯って、アキ?聞いてる?」 「⋯っあぁ、その数字が部屋の暗号かもしれねえ、って事だろ」 「そ。だから行くよ、って言ってるの。早く進んで」 何度も場面を止めてしまう俺に痺れを切らした夕に急かされてしまえば、先を進むしか方法が無かった。 そしてシーンが切り替わり、辿り着いた部屋の前で数字を入力していく。 すると、ギィィィッ、と建付けの悪い歪な音と共に開かれるドア。 中に進めば進む程、元から不快なBGMは更に深く、そして不穏なリズムを刻んでいる。 「っおい、これ以上進まねえ方が良いんじゃねえの?」 「でもさぁ⋯ここ以外に行ける場所無かったじゃん。他も一緒に見てみたでしょ?」 「明らかに死ぬやつじゃねえの?このターンって」 「まあ⋯何とかなるでしょ」 あくまでも軽いノリで進めていく夕の後ろを少しずつ進んでいけば、やがて急に始まる場面展開。 操作とは別にストーリーが始まってしまえば後は展開に身を委ねるしかなく静かに画面を見つめていたが、突然夕がプレイしてたキャラが倒れてしまい、そして徐々にその姿が豹変していく。 明らかにバケモン、では有るが、無造作に伸びてく毛髪や恐ろしい形相の顔、その動きでさえも歪であれば思わず身体が硬直してしまう。 ⋯⋯普通に無理なヤツだわ、これ。 「⋯あき、⋯⋯っアキ!早く逃げないと!!」 「⋯い、や⋯⋯無理、お前がやれよ」 「俺だって操作があるの!はやく!!!」 呆然とテレビ画面を見ている俺に不信を抱いたのか、名前を呼ばれた事で漸く我に返る。 早く、と言われても、無理なもんは無理。 だが、夕自身も別の操作が有るから、と差し出したコントローラーを押し返されてしまえば俺が自分自身で何とかする方法しかねえのだと悟ってしまう。 タイムロスをしてしまった事で、徐々に画面いっぱいに近付いてきてしまうその正体不明の化け物。 更に恐怖心が掻き立てられてしまうが、それでも前に進むしか選択肢が無ければ心を無にして操作を進めていく。

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