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なんてことない日常 4
そして、ようやく必死の思いで辿り着いたエンドロール。その頃には俺の心ここに在らず、と言うか、普通に新しいトラウマ作品として俺の中に追加されてしまった。
「どう?結構面白かったでしょ」
「⋯⋯このゲームのパッケージってどこにあんの?」
「あ〜⋯⋯何処に置いたっけな。⋯ん〜!」
「見せろ、って言ってんの」
「⋯⋯分かったよ。」
明らかに始終不穏な雰囲気のままエンドを迎えてしまったこのゲームは一体何なんだ、と詰めてみれば分かりやすく逸らされる視線。
その瞬間、あぁ、またやったな。と、悟ってしまう。
ホラーが苦手だと伝えている俺に対して過去に何度か同じようにプレイをさせて、そして怒られてきた経験がある筈。なのだが、全然懲りてねえな、コイツは。
そして、俺も普通に気付かねえんだもんな。
しれっと渡されたそのパッケージを確認して、やっぱりな、と確信する。
ホラー系の類として販売されているそれは確かに最近流行っているもので、俺も何度か広告等で目にはしていた。
だが、そもそもそのパッケージ自体が無理だと誘われた際に断った事だけはしっかりと覚えている。
「お前さ、次やったら許さねえって言ったよな」
「っでも!どうしてもアキと一緒にやりたくて⋯」
「⋯⋯帰るわ。」
「⋯はっ⋯?ちょ、っと待って!!」
ここで許してしまえばまた同じ事が繰り返されるだけだと理解していれば、夕の謝罪の言葉に耳を傾ける事無くソファーから立ち上がる。
寝室に置いたままの鞄を取りに行く為に歩みを進めていたが、気が付けばすっかり日が落ちてリビング以外は真っ暗な室内が目の前に広がっている。
その事実に気付いてしまった瞬間、さっきまでのあのゲーム画面が脳裏にこびり付いて目の前の状況と重なってしまった。
暗い室内で倒れ込むもう1人の主人公、そして、徐々に豹変していくその姿。
突然、背後から腕を掴まれてしまう事で、びくり!と身体が大袈裟な程に震えて、息が止まってしまう。
そのまま抱き締められる様に背後から引き寄せられて夕の腕の中に収まる事で、漸く現状に気付いたその途端身体の力が抜けていく。
「⋯⋯っごめ、あき。びっくりさせた⋯怖かった、よね。」
「⋯⋯怖い所じゃねえだろ、馬鹿が」
「俺が悪かった、から。⋯⋯もう絶対にこんな事しないから⋯⋯⋯帰らないで」
ぎゅっ、と力強く抱き締められる事で徐々に安心感に包まれてく一方で、毎回こうして懐柔されてしまう事が気に食わない。
⋯⋯気に食わない筈、だが、今更一人で部屋に戻る気合いなんてそもそも綺麗に無くなってしまっていれば、正直、展開的には有難いとさえ思ってしまう。
だが、素直に受け入れてしまえばまた同じ事が繰り返される事は理解している。夕の事を受け入れてやる前に一応忠告だけはしておく。
「次また同じ事してみろ、お前と今後一切遊んでやらねえからな」
「⋯⋯っ分かった。ちゃんと、覚えておきます。」
俺の肩に顔を埋めて反省してるのらしい雰囲気だけはしっかり感じ取れば、まあ⋯今回はそれで良いだろう。
歩きずらいから、とその力が緩んだタイミングで夕を引き剥がせば先にリビングまで戻る。
「うわ、結構時間経ってるじゃん。お腹空いたしさぁ、先にお風呂に入っちゃう?」
「そうだな。さっさと済ませて⋯⋯⋯」
そういえば時間を気にしてなかったな、と夕の視線につられて確認してみれば、丁度20時を過ぎた頃を指し示している。
確かに面倒な事を先に済ませてしまう為に風呂場まで向かおうと歩みを進めるが、その最中にどうしても脳裏にチラついてしまうあのゲーム画面。
こうなるからホラゲーは嫌だって言ってんのに。
でもまあ、⋯⋯こいつが一緒なら。
「⋯⋯お前が入るなら、俺も行くけど⋯⋯⋯どうすんの」
「⋯⋯良いの?⋯⋯っ一緒に入るに決まってるじゃん!!ほら、早くいこ!!」
普段はコイツが絡むと面倒だからと先にさっさと一人で風呂を済ませていたが、今回ばかりは話が違う。
控えめに、あくまでも夕自身に意見を委ねるように問い掛けてみればすぐに嬉しそうな笑顔を浮かべて近付いてきた夕に連れられるように、風呂場まで向かう。
ささっと衣服を脱いでいれば、明らかに下半身を中心に突き刺さる夕の視線。まあ予想外とまではいかないが、こんな堂々と見るもんじゃねえけどな。
「さっさとお前も脱いで入ってこいよ」
「あっ⋯!ちょっと待ってよ!」
いつまでも俺の事を見ていて動作の進まない夕を置いて先に風呂場へと入ってしまえば、シャワーの湯の温度を調節して頭上から一気に全身を濡らしてしまう。
後からやって来た夕の気配に気付けば身を引いてシャワーを譲りその間にシャンプーを手に取り頭を洗って居たが、中々動きの無い夕に疑問を抱き声を掛けてみる。
「おい、何してんの。」
「⋯⋯あ!いや、⋯⋯初めてちゃんと見たから。アキの身体。」
「別にそうでもねえだろ。勝手に風呂とかトイレとか覗いてんだから」
「まあそれはそうなんだけどさぁ⋯こうやってゆっくり見れるもんでもないじゃん。」
改めてまじまじと俺の身体を見つめてるだけで一向に動く気配の無い夕に痺れを切らしてしまえば、先に全てを終わらせてしまおうとシャンプーを洗い流した後にざっと身体も洗い終え、強引にシャワーを押し付けて。
「さっさと洗え。湯も張りてえから」
「⋯分かった。俺髪洗うのに時間掛かるし、その間にお湯溜めてても良いよ」
俺に促されて漸く動き出した夕の言葉に軽く頷けば、「もう良いよ」と聞こえた合図と共にシャワーとは別の蛇口を捻り、湯船にお湯が溜まる様子を静かに眺めて。
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