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なんてことない日常 8
「.....っ、まじ、でお前なぁ!!...最悪だわ。おい、今すぐやめろ。いま!すぐ!に!!」
「うわ、あ。そんなに、怖かった?え?ビックリしちゃったのぉ?大丈夫?」
「大丈夫そうに見えるか?これが。良いか?俺は、そのゲームを消せ。そう言ってるんだけど」
「え〜?でもぉ...ずっとやりたかったから、このゲーム。ここで終わりたくない。...仕方ないけど、アキが帰るなら俺一人でどうにかして進めてみるから。ごめんね?」
申し訳なさそうにしゅん、と肩を落として謝罪の言葉を続ける夕の顔にギリっと鋭い視線を向けながら、いや、そうじゃない。そう言う問題では無い。
力の入らない身体に気を緩めるべく瞳を閉じながら深呼吸を繰り返す。だが、目を閉じた瞬間、暗闇の中で何度もあの恐ろしい表情が残像として繰り返し現れてしまう。どうしてくれるんだ、この....女の、人...と言葉で表現するだけでも鳥肌が立ってしまう。
しかしどうしたものか。こわ...すぎて帰れないのだが、一人で。
どうしてもあの恐怖映像が脳裏にチラつき、この場から動く事が出来ない。いや、動きたくない。
ましてや既に陽が落ちて外はもう暗闇の中。その中を移動し更に一人きりの部屋に帰るのはどう考えても恐ろしすぎる。
だが、当の本人は絶対ゲームを止めない。その一点張りで。このまま説得を続けても絶対に引かないであろう夕の性格は十分に理解してる。だが、俺も俺で素直にじゃあ帰ります。そう答える事も出来ず。さて、この問題児にどう言い聞かせるべきか。
解決策を探るべく眉を顰めながら悶々と思考を働かせていたのだが、一つだけ浮上した提案に…随分悩んだが、今は現状的にそうするしか方法が無い。悔しいが、意を決して問い掛けてみて
「帰る、と言っただろ。さっき。.....前言撤回だ。泊めろ、お前の部屋に」
「別にいいけど、明日休みだし。でも良いの?俺止めないよ、このゲーム。辛いのはきっとアキの方だと思うけど」
「分かるだろ?.....っ怖いって言ってんだ、ソイツが!!あぁもうクソ!!とにかくその画面をどうにかしろ!!早く!!」
その意見は曲げないのかよ、と素直にプライドを捨てて叫んだ言葉が夕に刺さる事は無く無惨にも砕け散って。
そもそもコイツに同情を求めた俺が悪かったのかと、優しさの欠片も無い選択肢に抜けきった体の力は更に脱力し、視線を宙にさ迷わせて。
押し問答が続く間、『you、dead』そう示された文字の背後に何時までも消えず表示されるホラー画面。先にそこからどうにかしろ、そう叫べば「仕方ないなぁ…じゃあ、とりあえず俺の隣に居たら良いんじゃない?そしたら安心でしょ。」不満を口にしながらも、漸く画面を切り替えてくれたのか、メインメニューまで戻った事で流れ始める落ち着いたBGMに気づく。
漸く見せてくれた優しさの一欠片に油断も隙もねえ奴だと舌を打ち鳴らす。
画面に視線を戻して操作を始めるその一瞬、夕の口許が緩んでた気もするが、まぁ、まさかな。と画面から視線を逸らし今後の展開を想像するだけでも恐ろしいと盛大なため息を吐き出して。
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