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なんてことない日常 13
「ふ〜ん。ま、確かにその時、だねぇ。でも、アキのおケツ…ん〜、そもそも入ると思う?俺の」
「触ってたろ、さっき。あのさ、それはお互い様だろ?お前のデカすぎって訳でもないし、まぁ、俺のも。自分の立場でも考えてろ」
「げっ。バレた。え〜俺のデカくない?アキのより大きさあるでしょ。ん〜、ちょっと比べっこしようよ。やっぱりよくわかんないかも」
シャワーの水滴とは違う、明らかに人の温もりと言うか、夕の指先が軽く尻の側面を撫でる感覚に目敏く気付いて居れば、目元を細めその行動を先に指摘し。
何か含みのある物言いに、そもそも、と互いの下半身を指差しながら立場は対して変わらない、そう念を押せば比べっこだなんてまた面倒な事を提案する夕の言葉を遮り、チェンジ。とシャワーを押し付けながら早く椅子を貸せ。そう告げて。
前髪を掻き上げながら目元の水気を拭えば渋々場所を譲ってくれた夕と入れ替わりで腰掛けに座り、ボディーソープのボトルを手に取って。
特に内容の無い会話を互いに続けながら、気付けば先に全身を洗い終えて全ての工程が終わり。じゃあ先に。そう告げてよっこらせ、と立ち上がりドアに手を掛けるが、夕の手によって阻止され、腕を引かれるがままに気付けば着地地点は浴槽の縁で。
「俺が終わるまでそこに座って待ってて。」そう告げる言葉に、そういや先にシャワー譲って貰ったしな。と否定する理由も特に無ければ二つ返事で承諾し、身体を洗う夕の後ろをぼんやりと眺めて。
「よし、終わったぁ。.....、...アキってさぁ、初めて見た時から思ってたけど、ほんと、綺麗だよねぇ」
「急に、何。俺今結構なマヌケ面だったと思うけど、口開いてたし」
身体の泡を全て流し終えた夕からの終わりを知らせる言葉に、何を考える訳でも無くボーっと意識を飛ばせていた為、突然声を掛けられた事でハッと顔を上げて。
混じり合う互いの視線が何だか少し長い様な、妙な間に気付けば、はて、と緩く首を傾げ。すると急な褒め言葉に更にぽかんとした表情のまま、その意図を問い掛けて
「まぁ、今の顔は置いといて。アキのさ、その、髪とか目とか肌もだけど、色素薄いよね。ぜんぶ。」
「…遺伝だろうな、親の。でも、夕だって肌白い方だろ?その髪だって、それこそ俺より明るいし。金髪」
「俺のはフツーの肌の色だし、髪も自分でやってるから。アキのその天然ものが綺麗だなぁって話。その顔も、全部。ね、アキ?」
「次は、何ですか。別にそれ以上褒めても何も出ねえぞ。」
ふと濡れた髪を夕の指先が撫でる感覚に気付く。そういや母も同様に色素が薄かったっけ、と思い出す。
淡褐色の髪色に琥珀色の瞳。肌に関しては、趣味的に室内で過ごす事が多くそもそも陽に当たる機会が少ないからなのだろうが。それは夕も同じだろ、と指摘をする。
すると、続く問い掛けにまだ何か気になる所でも、とその瞳を見つめ返しては言葉を待ち。
「好きだよ、アキの事。顔だけじゃなくて、その中身も。ぜ〜んぶ、大好き。」
「……そりゃどうも。んじゃ、そろそろ出るぞ。流石に寒いわ」
ふと、髪先を撫でていた夕の指先がそのまま頬に触れ、片頬を包み込む様に手を添えられる。そのまま柔らかな笑みと共に告げられたどストレートな告白の言葉。
そうか、と一言添えるだけで口を閉ざし。冷えてるのは本音の為、腰を上げては先にドアを開けて脱衣所に上がり。
「あっ…もしかして照れた?ね、アキ、こっち向いてよ。絶対照れてる」
「うっせえ、早く着替えろ。飯買いに行く時間が無くなるだろ」
「はっ、え?!もうそんな時間!?やばいやばい。も〜めちゃくちゃお腹空いたよぉ俺」
どうしてそんな事には気付くのか、平然を装ったつもりなのだがそんな微妙な変化がバレて嬉々とした声が聞こえてくるが、忙しなくタオルで全身を拭きあげる事で思考を逸らし。
コンビニまで向かう時間が無くなる、そう告げる事で慌ててタオルを手に取る姿を確認して。安堵の息と共に身体が冷えきらない内に衣服に着替ると手早く身支度を終えて。
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